ロシアがISILに対して実施中の一連の巡航ミサイル攻撃についての雑感

 現在ロシア軍は水上戦闘艦・潜水艦・航空機からISILに対して巡航ミサイル攻撃を行っています。
 一連の攻撃の火蓋を切ったのは、カスピ小艦隊でした。警備艦ダゲスタン(ゲパルト型/プロジェクト11661K)及び麾下の小型ロケット艦ブヤンM3隻の合計4隻が10月7日の早朝にカスピ海からシリア領土に向けて26発のカリブル有翼ミサイルを発射しています。ゲパルト型1番艦タタールスタンがウラン対艦ミサイルによる対水上打撃能力を備えているのに対し、ダゲスタンはSSMに代えて"3S14"VLSを8基搭載することでカリブルによる対地攻撃能力を備えています。これはブヤンM各艦も同様です。この4隻はカスピ小艦隊が有するカリブルを発射可能な全戦力でもあります。

 カスピ海からシリアを攻撃するに当たって、巡航ミサイルイラクとイランの領空を通過する必要があります。攻撃に際してロシアは両国に許可を取り付けたとのことです。また、一部ではこの攻撃で発射されたミサイルの一部がイラン領土に落下したという報道も成されましたがロシア当局は否定しています。
 カスピ小艦隊は周囲にはアゼルバイジャンなどの油田地域があるとはいえ今まではあまり戦略上重視されてきたとは言えませんでしたが、ここに来て対中東戦略で新たな巡航ミサイル発射という戦略的役割が付与されたわけです。タルトゥースを通じたシリアへの物資輸送や地中海への部隊展開を通じて黒海艦隊は対中東戦略で大きな役割を担ってきましたが、同艦隊には高度な対地攻撃能力を備えた巡航ミサイルを装備した水上戦闘艦は存在しません。米空母撃沈を目指した冷戦型装備の艦船が殆どを占めており、ポスト冷戦に求められる地域紛争介入のための対地攻撃能力が欠けています。それに対してゲパルト型警備艦や小型ロケット艦ブヤンMなど、現代の軍事行動の目的に対応した装備を有する新鋭艦が配備されたカスピ小艦隊は小勢力ながら有力な艦隊だとも言えます。更に、シリアを攻撃するならカスピ海からならイランやイランの領空をミサイルが通過する許可さえ取れば事足ります。黒海から攻撃するにはトルコと交渉する必要がありますし、わざわざ地中海まで出て行くとなると火力投射の周期も変わってくるでしょう。カスピ小艦隊から攻撃を行うのは軍事的にも政治的にも合理的だといえます。

 しばらく間を置いた11月17日にTu-95とTu-160による巡航ミサイル攻撃が行われました。これは11月のパリの自爆テロ及び10月のシナイ半島でのロシア機墜落を受けて行われたISILに対する空爆の一部です。空爆には12機のTu-22M3のほかTu-160・Tu-95MSが投入されており、このうちTu-160とTu-95MSが巡航ミサイル攻撃を行っています。Tu-22M3は目的に適合する通常弾頭巡航ミサイルを発射できないのでラッカやデリゾールへ侵入しての爆撃に徹しているようです。Tu-160やTu-95はカスピ海上から34発の巡航ミサイル攻撃を発射し、その中にはステルス性を持つ最新鋭の巡航ミサイルKh-101が含まれていたことから注目されています。主力のKh-55系列が射程3000kmとされているのに対してKh-101はカリブルの2倍の射程である5000km以上の射程を持つとされ、これはロシア領空から直接シリアを攻撃出来るほどです。以前からロシアはISILへの空爆目的と称してSu-30やSu-34あるいはSu-25など12機をシリアへ送り込んでいましたが、今後は更に大型爆撃機25機・戦闘攻撃機8機・戦闘機4機がロシアを拠点にISIL攻撃を支援する方針であり大幅に戦力が増強されます。

 さらに航空機による巡航ミサイル攻撃と同日の11月17日に潜水艦からも巡航ミサイルが発射されたとされています。攻撃したのは黒海艦隊所属の改キロ級(プロジェクト636.3)のB-237 ロストフ・ナ・ドヌーで、改キロ級はカリブルシリーズのうち3M14Eを運用する能力があります。ただし、この情報はロシア語の一次ソースでも「国防省筋」が伝えたという表現がされており公式な発表では無いようです。



 一連の攻撃でロシアは水上戦闘艦・航空機・潜水艦からの巡航ミサイルによる精密な火力投射能力を有していることを実証しました。ロシアはアメリカが湾岸戦争で実施したような「開戦劈頭巡航ミサイル攻撃を行い敵を制圧する」戦術に強い興味を示しており長らく研究を行ってきましたが、それが実を結んだのです。こうした巡航ミサイルによる精密な対地攻撃は従来は主に西側先進諸国の特権的な能力だと考えられていましたがロシアもそういった国々の仲間入りを一応果たしたことになります。一連の攻撃には純粋な軍事的目的以外にも多分にデモンストレーション的目的も含まれているのでしょう。こうした目覚ましい能力発展も南オセチア紛争の戦訓や反省を反映した改革と無関係では無いでしょう。巡航ミサイルによる対地攻撃の困難については改めて説明するまでもないでしょうが、正確な測位システムや地図の整備や目標選定能力などが要求されるためハード面ソフト面共に技術と経験が要求されます。ロシアが高度なECM状況下でも先を行く西側諸国と同等の巡航ミサイル攻撃を行えるかどうかはともかくとして、このISIL攻撃はロシアに西側と同等の巡航ミサイルによる対地攻撃能力が備わっていることが実証された出来事として注目に値すると思います。
 ロシア(ソ連)と西側の巡航ミサイルと言えば、個人的に真っ先に思い当たるのがP-700とTASM(対艦型トマホーク)です。両者は射程はほぼ同じですが大きさは全く異なっており、トマホークは533mm魚雷発射管から運用できるほど小型であるのに対してP-700は重量が7トンにも達する超大型となっている。飛翔速度や誘導性能ではラムジェットエンジンを搭載し衛星誘導を併用できるなどP-700にも優れた点は有ったし米空母を確実に撃沈するためにあのような巨体が必要とされたとも言われているが、巨大化の一因に当時のソ連のエレクトロニクス技術が西側より劣っていたという面もあるとも指摘されています。P-700の就役から約30年後に登場したカリブル(クラブ)有翼ミサイルは最大射程2500km程度とされており、これはトマホークの現行版のタクティカル・トマホークの射程3000kmに匹敵するものです。サイズはこれもトマホーク並で、水上戦闘艦なら汎用VLS潜水艦なら魚雷発射管から運用できます。当時と求められる性能や目的あるいは状況(何が何でも米空母を沈めたいわけではない)が違うとはいえ、遂にP-700を生み出したソ連の直系たるロシアもここまで来たかと思うと少し胸が熱くなります。ところで、ロシア海軍は改キロ級を黒海艦隊以外にも配備する意向のようなので、地域紛争介入能力を主要艦隊が備えるのは意外と早くなるかもしれませんね。
 さて、水上戦闘艦からISILへの巡航ミサイル攻撃は前述したとおりダゲスタン及びブヤンMから行われています。どちらも小型艦艇であることは間違いありません。冷戦時代、地域紛争介入と言えばそのシンボルは巨大な米空母だとソ連は考えていたようで、アドミラル・クズネツォフまで本格的な空母を有しなかったソ連スカッドミサイルを装備した巡洋艦プロジェクト1080を設計し地域紛争介入を目論んでいました。結局プロジェクト1080は実現しませんでしたが、地域紛争介入の手段として巡航ミサイルに熱い視線をロシアが注いでいたことは間違いありません。その成果の1つがダゲスタンやブヤンMへのカリブル搭載であり、結果として今のロシアの巡航ミサイル攻撃があるわけです。2013年にキーロフ級のアドミラル・ナヒーモフは近代化されることが発表されましたが、そこで対艦ミサイルのP-700はP-800オーニクス及びカリブルに交換されることになっています。生まれ変わるアドミラル・ナヒーモフにかつてのプロジェクト1080が重なりますが、ロシアはアドミラル・ナヒーモフの近代化を待たず全く対称的な小型艦艇で歴史的な巡航ミサイル攻撃を敢行しました。かつてP-700は大型艦にしか搭載できなかったのに対し、トマホークはその小柄なサイズを生かして駆逐艦や潜水艦にも配備されそれまで戦略的な存在感の乏しかった艦種に長射程かつ精密な対地火力投射能力を付与するという大仕事をやってのけました。今ロシア海軍ではそれと全く同じことがカリブルを通じて起こっているはずです。スカッドミサイルと巡洋艦による地域紛争介入を目論んだソ連の大きな夢を、小さなカリブルミサイルを搭載した小さなコルベットが叶えたというのは何だか面白い話です。

ズヴェズドーチカ工場は”世界最速の潜水艦”の解体を完了した

 セヴェロドヴィンスクの修理工場”ズヴェズドーチカ”は歴史上世界最速であり、”金魚”と渾名されたプロジェクト661原子力潜水艦K-222(パパ型巡航ミサイル原潜)の解体を完全に完了しました。

(↑K-222 巡航ミサイル原潜)

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"Звездочка" завершила утилизацию самой быстрой в мире подлодки:FLOT PROMより】

 「3月31日、我々の専門家は使用済み核燃料の除去と原子炉の密閉の為の特殊な作業を行いました」とタス通信とズヴェズドーチカの広報部門は発表している。切断された残りの3つの原子炉区画ユニット(原子炉区画1つとその付随区画2つ)は近いうちにコラ半島のサイダ湾に運ばれ、そこにある長期保存施設で保管されることになる。

 以前に”ズヴェズドーチカ”は国営原子力企業ロスアトムとK-222―ソ連の潜水艦として初めてチタン合金で船体が作られた―の再利用に関する契約を交わし、2010年から再利用に関する作業を行ってきた。”ズヴェズドーチカ”の説明どおり、最も困難な作業は使用済み核燃料の除去であった。「K-222の原子炉の設計上の特徴により、他の潜水艦に対して使用されてきた燃料集積体取り出しの為の設備を使用することが出来ず、そのため新たに設計された設備を製造しなければならなかったのです。」と”ズヴェズドーチカ”は語っている。
 2013年3月、”ズヴェズドーチカ”は使用済み核燃料の除去を開始した。「700本以上の核燃料棒を原子炉から特別な輸送コンテナに移動させなければなりませんでした。」2014年12月”ズヴェズドーチカ”は使用済み核燃料を載せた最初の特別列車を送り出し、核燃料はウラルの生産連合体”マヤーク”に再処理と保管を目的に運び込まれた。

 K-222(1978年まではK-162と呼ばれた)はセヴマシュ造船所で1963年に起工され、1970年に北方艦隊に編入された。長期に渡ったその建造期間と高価な建造コストにために”金魚”という渾名が付けられた。1989年に海軍を除籍されている。1970年に潜水艦の水中速度記録としては世界最速の44.7ノットを樹立し、その記録は未だ破られていない。

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パパ型巡航ミサイル原潜として知られたK-222は戦力価値の低い第1世代型巡航ミサイル原潜に代わる潜水艦システムの開発を目的にP-70巡航ミサイルを搭載する潜水艦として建造され、船体にソ連海軍の潜水艦として初めてチタン合金を採用するなど凝った作りではありましたが、技術的困難により建造が遅延しているうちにより性能の高いP-120ミサイル(チャーリーII型に搭載)と高価で加工の難しいチタンではなく高張力鋼を使用するチャーリー型巡航ミサイル原潜(プロジェクト670)調達の目処が立ったことにより量産されず、K-162(当時)も部品調達の問題等から実験潜水艦的役割を割り当てられていました。
 1970年には潜水艦の水中速度としては世界最速となる44.7ノットの記録を深度100mで樹立し、その際の原子炉出力は97%でした。また翌1971年には原子炉出力100%での航行を行い、機関の安全の問題からまだ余力を残した状態で高速航行を中止したものの、非公式ながら44.85ノットの速度を記録したとされています。しかしこういった高速航行は塗装の剥離や船体の破損、そして騒音による重大な聴音能力の低下を伴い、当然のことながら水中放射雑音も非常に大きいという問題を抱えていました。
 1980年の燃料棒交換時に発生した1次冷却水漏出事故で原子炉室が汚染され、1984年12月に予備役へ編入となり1989年3月14日には除籍、1999年に海軍旗を降ろしセヴマシュへ引き渡されました。セヴマシュでは2008年から解体が行われ、後に原子炉区画等の処理の為に”ズヴェズドーチカ”へ移動されています。2010年には船体その他の解体が完了し、放射能汚染された3区画を含む原子炉区画ユニットがセヴェロドヴィンスク第27番バース付近で保管されてきました。このため今回の「完全に解体」というのは放射能汚染された原子炉区画から使用済み核燃料を取り出すことに成功し、通常の原子炉再利用プログラムの手順で処理することが可能になったという意味合いでしょう。

ロシアはヨーロッパ通常戦力条約を完全に脱退する

Военное.РФ の記事によると、ロシアはヨーロッパ通常戦力条約を完全に脱退するようです。

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 NATO事務総長イェンス・ストルテンベルグ氏はブリュッセルで行われたプレスカンファレンスでロシアののヨーロッパ通常戦力条約(CFE条約)脱退について言及した。
氏は「我々はロシアのCFE条約への参加を凍結するという決定に失望している。兵器削減に関する協議は重要だ。」と述べている。一方ロシア政府は新たな兵器管理の枠組みを策定することに対して歓迎の意を表している。ロシア外務省不拡散・軍備管理問題局長ミハイル・ウリヤーノフ氏によると、CFE条約から脱退するというロシア政府の決定はヨーロッパの軍事的政治バランスに影響を与えないという。

 3月10日、ロシア政府はヨーロッパ通常戦力条約の合同協議グループ会議への参加を凍結することを発表した。今後のこの枠組におけるロシアの利益はベラルーシが代表すると考えられている。これに伴い、ロシアはCFE条約への参加は2007年から凍結していたが、2015年3月11日をもって完全にCFE条約を脱退することになった。ロシア政府はこの決定に関して「ロシアのCFE条約への参加は無駄なコストがかかるという財政的・経済的点観点から見ても、政治的・実務的に無意味なものになってしまったからだ」と説明している。
 2014年11月、ラブロフ外相は”CFE条約の死”に関してコメントしている。同時に彼はロシア政府にCFE条約の枠組みへ復帰する意思が無いことも強調していた。

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(↑NATOの東方拡大)

 ヨーロッパ通常戦力条約は核兵器を含まない通常戦力を削減する目的で締結された条約で、1990年にパリで調印され1992年に発効しています。NATO諸国の他ロシアをはじめとするワルシャワ条約機構参加国も締約しており、参加国は30ヶ国に及ぶものです。しかしロシアは、NATOが自らの陣営を拡大させ事実上の条項無視を行ってきた他にもっともらしい口実を設けることでCFE適合条約の効力発生を妨げてきたという意見から2007年にCFE条約への参加を凍結し、例外として協議グループの作業への参加を行ってきました。しかしラブロフ外相が述べた通り、その協議グループへの参加も(NATOの態度が変わらなかったために)無意味なものでコストの無駄だと見なし、CFE条約の枠組みから完全に脱退する決定に至ったようです。一方でロシアは通常戦力削減自体を拒否するものではなく、NATO諸国及びロシアの国益双方を満たす体制確立に向けて協力する準備は有ると述べています。
 ここで言うNATOの陣営拡大とは、恐らく”NATOの東方拡大”を指しているものと考えられます。つまり、旧ソ連圏である東欧諸国やバルト三国をもNATOに加盟させているという事実です。ロシアには「冷戦終結時にNATOは西ドイツ以東には手を出さないという約束を下にもかかわらず、NATOは東へ向かって軍事機構として膨張を続けた」という意識があり、自陣営をNATOが切り崩して行くことに対して不快感を表明してきました。

 またCFE条約脱退と呼応して、上記のロシア外務省不拡散・軍備管理問題局長ミハイル・ウリヤーノフ氏は編入したクリミア半島核兵器を配備する権利があるともコメントしています。CFE条約自体は核兵器の配備と直接の関係は有りませんが、ウクライナソ連からの独立後に米英露とブダペスト覚書を取り交わし、核兵器を廃棄する代わりに安全保障を得たという経緯があります。ウクライナはそれ以来は非核化されていたわけですが、ソ連崩壊時にも問題となった重要拠点のロシア海軍黒海艦隊の拠点であるセヴァストーポリ防衛や信頼しかねる相手であるNATOへの牽制という目的でクリミア半島への核配備はCFE条約脱退と関連した出来事です。

ウクライナ情勢に関してロシア下院議員へのインタビュー

 イズベスチヤにロシア下院防衛委員会に属するFranz Klintsevich氏が受けたインタビューが掲載されていました。テーマは主にウクライナに関するもので、混迷を極めるウクライナ情勢に関して”政界の有識者”がどの様に事態を認識しているのかが垣間見えるものであったので翻訳しておきます。


 ロシア国家院防衛委員会副議長のFranz Klintsevich氏は、ロシアがウクライナ・西側諸国・NATOからのあらゆる攻撃を撃退する準備が整っていると確信していると述べた一方で、しかしウクライナ南東の”独立地域”住民への大規模な分断・切り取りは将来ロシアにとって戦闘も含む深刻な脅威を突きつけることになるだろうとの予測を語った。



記者「ウクライナ当局とその職員は今後の軍事的構造改革に関しての情報を積極的に広めている。そこではウクライナ軍の”スイス流”への移行が語られている。つまり、スイスにおいて採用されている、領土防衛は男性国民のほぼ全てが担い、予備役の人々は軍服や兵器を含む装備を自宅に準備しておくというやり方のことだ。もし戒厳令が発令された場合、予備役軍人は予め定められ大砲や装甲車が配備されている地点に集合しその後に戦闘に参加する。ウクライナにおいて、この方式はどの程度現実味があるのか?」

Franz Klintsevich「常識とプロセスの最適化という観点から見て、スイス軍モデルはよく機能すると考えられる。このモデルはスイスだけではなく、イスラエルアメリカの一部の州などでも有効だ。武器は指定地域のどこかに貯蔵される。しかし我々は、武器貯蔵には特別の環境―武器弾薬のための安全な保管施設―が必要になるということを理解しなければならない。このケースでは、すべての装備が保管されている事について指揮官のチェックを受けていなければならない。ウクライナにはこれを実行する資金も時間もなく、したがって不可能だ。付け加えて、我々はこの方式は単純に危険だということを忘れるべきではない。なぜなら、安全の鍵を握っているのは予備役達になるからだ。もしそうでなければ、この制度の目的は達成できない。」


記者「なぜウクライナは自身の戦闘能力の増大に傾倒しているのか?」

Franz Klintsevich「ウクライナの指導者によると、彼らはロシアからの侵略に備えているということだ。彼らはもっとも重要な秘密を知らない。それはロシアはウクライナに対して軍事的に侵略を行う如何なる計画や準備も行っていないという事実だ。しかし我々は、ウクライナの軍事力増強がロシア連邦市民とその領土の脅威となるのであれば彼らに対して十分に深刻的な打撃を与えると警告しておく。」


記者「それだけが考えうる理由なのか?」

Franz Klintsevich「今日、西側諸国はウクライナに対して経済・農業・社会が必要としている資金援助を行っていない。西側諸国は戦争に対してしか資金を支出する気がないだろう。なぜなら今や彼らは戦争を必要としているからだ。NATOをはノヴォロシアを踏み台として必要としている。つまりロシアの”柔らかい下腹部”なのだ。”ネットワーク中心の戦い(NCW)”理論において精密誘導兵器による大規模攻勢は核兵器の能力と拮抗し無効化する。もちろん、アメリカ人だけが一方的優位に立っているわけではなく我々もその種の兵器は保有している。しかしアメリカはそれらを効果的に使用してみせるのだ。」


記者「ロシアにとって大きな脅威とは何か?」

Franz Klintsevich「先述のそれが大きな脅威だ。さらに、バルト三国ポーランドなど旧ソ連邦構成国では新たな基地を建設している国もある。懐疑的なアマチュアの軍事評論家たちはそれらの基地に西側諸国はたった600人の米兵しか駐留させられないと言うが、近代的な航空機が発着する基地として機能させられるという事実を無視することは出来ない。だが心配する必要はない。我々はロシアの防衛を確実に遂行できる。私は核兵器による軍事衝突は起こりえないということを心から確信していると言わせてもらいたい。」


記者「自分にはウクライナ南東部での衝突に関する解決方が見えてこない」

Franz Klintsevich「ウクライナ南東部での戦闘は終結した。西側諸国は状況を我々の両肩に担わせようとして、”ロシアは民兵に圧力を掛けるのをやめようとしない”と言っている。しかし考えてみて欲しいのは、たった数カ月前に自分の家や高齢の両親を守るために武器を手にしたばかりの民兵に一体誰が圧力を掛けることが出来るだろうか、ということだ。正に一週間後彼らは武器を手放した瞬間に両親を殺されたのだ―そしてそれは完全に分断された後だった。ノヴォロシアに住む者ならだれでもそれが分かる。故に圧力を掛けることが出来るものなど存在しない。今日の西側諸国の課題は唯一つ。ロシアを如何にウクライナでの軍事衝突に引きずり込めるかということだ。彼らはそれを続けることが出来、我々はその為に傷つけられ殺される。」


記者「ノヴォロシアで起こる出来事の進展についての見通しの評価は?」

Franz Klintsevich「ありとあらゆることがノヴォロシアと関連して語られる。アメリカにとって非常に重要な事であるからだ。ノヴォロシアはロシアの向こうずねを蹴飛ばすことの出来る精密誘導兵器をホストさせる踏み台としてNATOにとっては必要なのだ。彼らは決してそれを公言したりはしないが、これこそが今や彼らがする必要のないはずの地元住民の分断を行っている理由なのだ。NATOはあらゆる出来事に対応しようと計画し、状況と経済を不安定化させ、そして国際的な緊張をもたらしかねない膨大な数のロシア領土内の難民はすぐにも710万人に達しようとしている。ウクライナでは別の問題も存在している。死者は3万1千人を超えている。犠牲者の多くは見捨てられて取り残された人々だった。しかしこの問題は未だ影響を与えており、犠牲者の親族や友人を通じてはっきりと現れている。彼らは、死んでしまいもはや呼び寄せることの出来ない家族が帰ってくると信じているのだ。」


記者「ノヴォロシア住民の分断についてどう考えるか?他にその原因はあるのか?」

Franz Klintsevich「ウクライナ南東部で住民たちが分断されている理由は他にもある。ルガンスク人民共
和国とドネツク民共和国にはシベリアの10倍以上ともいわれるシェールガスが眠っていると考えられており、それが理由だ。シェールガス採掘のため領土を切り取り、新たな緩衝地帯を創りだそうと西側は考えている。「我々はソ連など知ったことではない。最終目標はウクライナのドンバスだ。」とヒトラーはかつて述べたのだ。」



 インタビューは以上で終わりです。
 まず最初の質問はウクライナ軍の改革についてです。スイス方式のいわゆる国民皆兵制に関して、Franz Klintsevichは有効であると考えているもののウクライナにはそれを有効に活かすリソースが不足していると考えているようです。2013年に徴兵制を廃止した矢先の戦闘勃発で徴兵制を復活させたウクライナですが、予備役の活用も含めて迅速な初動を行うことに関しては苦慮しているようです。
 その次は「ウクライナに関して誰が悪いのか?西側だ」というお決まりの答弁が並びますが、その中で目を引くのが精密誘導兵器とネットワーク中心の戦い(NCW)に関しての言及です。両者を組み合わせることでNATOはロシアに核兵器にも対抗しうる大きな打撃を与えられるのであり、その橋頭堡としてウクライナを欲しているのだと主張しています。この分野でロシアが遅れていることも同時に認めており、重要なファクターだとみなしていることが伺えます。特にネットワーク中心の戦いに関しては米軍も理論に則した装備を配備しつつある段階であり正に最新理論で有るわけですが、それ故にそれらで効率的に襲撃されることを警戒しているようです。
 他方でバルト三国ポーランドなどかつてのソ連圏とも言える国々への西側の軍事的進出も潜在的脅威だと考えているようです。その後もインタビューではこれまた旧ソ連圏であるウクライナへのNATOの野心を背景とした進出を非難しており、この辺りには見るべき点は少ないかもしれません。しかし西側とロシアによるウクライナ分断の1つとしてシェールガスが挙げられています。ルガンスク人民共和国ドネツク民共和国の領域に膨大なシェールガスの埋蔵が見込まれるとのことですが、真偽の程はわかりません。ヒトラーの言葉を引用する形で登場したドンバスはドネツク民共和国の範疇に入りますが、つまり西側はシェールガス利権を得るために両地域の奪還を目論んでいてそれが分断を強めている原因だと主張しているわけです。従来から天然ガスパイプラインを通じてシェールガスウクライナと関連して語られてきましたが、直接ウクライナの領土からシェールガスが算出するという話は耳に新しいです。調べてみると欧米企業がウクライナに採掘技術を売りつけようとセールスしてたようですが、果たして採算がとれるのかどうかは記事でも明言されておらずはっきりしたことはわかりません。

INF全廃条約はロシアの戦略を損ねる

 前ロシア連邦軍参謀総長のユーリー・バルエフスキーが「INF全廃条約の遵守はロシアの戦略の利益とはならない」と述べたとВоенное.РФが報じています

 INF全廃条約に関しては米露双方が継続的な合意違反を行っているとも言われている。
専門家たちは軍事的指導者がそれが適切であるとみなした場合、ロシアはINF全廃条約を脱退するかもしれないと考えており、アメリカ国務次官補Rose Gottemoellerは12月10日の公聴会で「アメリカはロシアにINF全廃条約を忠実に履行させる為の一連の軍事的対抗手段を用意している」と述べた。7月上旬にアメリカ政府は”中距離兵器管理の条約遵守に関する報告”を纏め、その中でロシアによるINF全廃条約違反を非難した。その報告書ではINF条約下における射程500km〜5500kmの地上配備型巡航ミサイル及びそのランチャーを試験・製造・配備しないという義務をロシアが犯したことになっている。ロシア外務省はこの疑惑は事実無根だと主張しているが、一方でメディアは「我々はアメリカ出典の情報によってロシアの新型巡航ミサイルの実験や諸元、そして条約違反について語ることだって出来るのだ」と報じている。
 INF全廃条約は米ソ間で1987年に調印され翌1988年に発効し、両国は短距離(500km〜1000km)と中距離(1000km〜5500km)の射程を持つ兵器を完全に廃止した。1991年までには条約が履行され、2001年までには相互査察も完了している。しかし米ソ以外の各国は未だにこの種の兵器の保有が可能であり、大陸間弾道ミサイル・戦域弾道ミサイル・戦術弾道ミサイルが中国・北朝鮮イスラエル・イラン・インド・パキスタンで現在も運用されている。


 これまでも米露関係が緊張する度に争点となってきたINF問題ですが、ウクライナ関係で再炎上といったところでしょうか(かなり短期間で炎上を繰り返すので実際どうかはわかりませんが)。
 この件に関するロシア側の主張はほぼ一貫していて、上のВоенное.РФの記事中でも触れられていたように米露以外の第三国が中・短距離ミサイルを保有しているにも関わらず自分たちがそれを制限されているのは不公平だというものです。そしてロシアは中・短距離戦力をアメリカのミサイル防衛計画への対抗手段として位置づけているため尚更不公平だと言っているわけです。つまり、アメリカがMD配備を行うならロシアはそのMDを突破する能力を持つ弾道ミサイルを配備して均衡を取り戻すという理屈になります。一例としてはブッシュ政権の東欧ミサイル防衛計画に反発して2008年に当時のメドベージェフ大統領が表明したカリーニングラードへの9K720”イスカンデル-M”配備が挙げられます。この時はイスカンデルの射程に入るバルト三国や東欧諸国は配備について懸念を表明しており、イスカンデル配備問題自体はアメリカの計画見直しで沈静化しますがミサイル防衛への対抗手段としてのイスカンデルそしてINF戦力のパワーは失われていません。このことは今回のユーリー・バルエフスキー前ロシア連邦軍参謀総の発言からも明らかです。ロシア政府として公式にINF全廃条約脱退を表明しているわけではないものの、この問題は常に軍や政府内でくすぶり続け、問題が表面化する度に彼らは”INF全廃条約の脱退かグローバル化”を主張するのです。
 この問題については小泉悠氏がYahooニュースに正確・詳細な記事を投稿しているので詳しくはそちらに譲りますが、米露双方に後ろ暗い所があり、それがВоенное.РФの言うところの「双方が継続的な合意違反を行っている」ということです。
ロシア側は
・イスカンデル-K地上配備型巡航ミサイル
・イスカンデル-M戦術弾道ミサイル
・RS-26弾道ミサイル

アメリカ側は
・中距離弾道ミサイル標的として使われるトライデントSLBMの改造型
・長距離UAV
・欧州ミサイル防衛計画に組み込まれるイージス・アショア・サイト
がINF全廃条約違反の可能性があるとされています。
 イスカンデル-Mについては公称最大射程500kmなのでINF全廃条約の対象にはなりませんが、500km以上の射程をマークするポテンシャルを持つとも言われていますが他の2つも含めていずれも憶測の域を出ません。
 一方でアメリカ側の違反についてですが、UAVは完全な言いがかりというかイチャモンとしか言い様がない。弾道ミサイル標的についてもそのロジックにはややイチャモン感があるが破綻しているとまでは言えないが、それなりにクリティカルなのはイージス・アショア・サイトでしょう。現在の欧州弾道ミサイル防衛計画の目玉でもあるわけですが、その中枢は所謂イージスシステムなのでランチャーはMk.41 VLSが使用されるわけで物理的にトマホークが発射可能である以上INFに該当してしまいます。SM-3の運用にはトマホーク対応のStrike-Lengthが必須なので言い逃れは不可能です。何らかの対策が必要でしょう。

 INF問題は政治的な問題へと昇華されており、個人の発言一つが一大事に直ちに発展することは無いでしょうが、二国間のバロメーターそして今後の軍事戦略を左右する出来事として注視する必要はあるでしょう。

ロシアは新たなミサイル追跡艦を開発する

 Flot.comの記事によると、ロシアは新しいミサイル追跡艦を建造する予定があるということです。(以下記事翻訳)

(↑ミサイル追跡艦 "マーシャル・クリロフ")
 ロシアは他国の戦略兵器やミサイル防衛システムの挙動を監視するための新たな装備を開発する。装備は北極海地域で活動させることのできる艦載型が望ましい。
 新しいミサイル追跡システムは、ミサイル防衛システムの評価・弾道ミサイルの発射と弾道ミサイル標的複合体などの監視ができるように設計されています。また、この複合体は大陸間弾道ミサイル(潜水艦から発射されるものも含めて)、宇宙打ち上げロケット、アメリカ合衆国が"迅速な世界的攻撃"をコンセプトに開発する様々な種類の弾頭を備えた巡航ミサイルと化す極超音速機を含めた諸国の先進的概念戦略兵器の捕捉も可能になっています。そして、このシステムはロシアのミサイルのテストにも利用することが可能です。
 ミサイル追跡システムの運送装備として艦船が無限の航続力と北極海での作戦能力を備えた形で調達され、その艦船の全長は140m、排水量14,000トンと見込まれています。艦船の乗組員は30名のロシア水兵と105名の"特別人員"で構成されます。最大行動期間は120日であり、少なくとも10,000海里を航行できるとのことです。居住区は艦種部の上部構造物に設置されます。推進装置は2軸のスクリュープロペラとバウ・スラスターになるべきだと考えられています。そして艦後部にはヘリコプター格納庫と飛行甲板が用意されます。
 プロジェクトの技術的・戦術的・経済的実現可能性と委任事項の草案は2014年11月末日までに纏められます。最初の契約は7300万ルーブルになると試算されているようです。
 この種の艦は、旧ソ連海軍が弾道のセグメントが異なるミサイルのパラメーターをコントロールするために設計した同じ種別の艦船を保有していたことを想起させます。ロシア海軍は現在この種の艦としては唯一アドミラルティ造船所で建造された"マーシャル・クリロフ"を保有しています。2012年に"マーシャル・クリロフ"は近代化と寿命延長整備を行い、衛星や巡航ミサイルそして弾道ミサイルと宇宙ロケットの飛行テストの支援任務を定期的にこなしています。
(翻訳ここまで)


 ロシアでは複合測量艦と呼ばれるミサイル追跡艦の新型をロシア海軍は建造する意向の様です。現役の"マーシャル・クリロフ"は1989年末日にプロジェクト1914の2番艦としてソ連海軍が受領しロシア海軍に継承されたものです。当時は同型艦でプロジェクト1914のネームシップである1番艦"マーシャル・ネジェリン"も活動していましたが、1998年に除籍されたため"マーシャル・クリロフ"が現在唯一のミサイル追跡艦として運用されています。かつては他にもソ連科学アカデミーが建造した艦が宇宙開発に関連した追跡を引き受けていましたが、彼も既に解体されています。
 ミサイル追跡艦は、諸国のミサイルの諸元を分析するという情報収集的な観点から必要とされることもありますが、自国の戦略兵器の運用におけるデータを記録するために必要とされることも多いです。そのため戦略原潜を運用するフランスもミサイル追跡艦を保有しています。他にはアメリカのT-AGM-23"オブザヴェーション・アイランド"が北朝鮮のミサイル発射を監視する任務に就くことが多いので比較的日本では馴染み深いと言えるでしょう。また、中国はミサイル追跡艦兼衛星追跡艦として"遠望型衛星追跡艦"を6隻保有しており、特に宇宙ロケットの追跡で威力を発揮しています。

 ミサイル追跡艦の目的は「水平線に隠れて地上局から見えなくなった飛翔体の追跡」と言えるでしょう。人工衛星の打ち上げでは、ロケットを追跡して得たデータによって軌道を決定する方法が主に使われています。このため、ある局面まではロケットを継続して観測する必要がありますが、1ヶ所の地上局で観測しているだけではいずれ水平線の向こう側へ飛んでいってしまうので観測不可能になります。そこで、複数の地上局を異なる地点に用意してそれぞれの局が観測を引き継いでいくことでロケットをロストすることなく必要なデータを取得しているのです。例えば日本のJAXAでは国内だけでも射場に近い種子島以外にも勝浦・沖縄に追跡管制施設が設置されています。そして国外のスウェーデン・オーストラリア・チリ・スペイン領カナリア諸島にも地上局が設置されており、日本から衛星が見えない位置にあっても追跡が可能な体制を構築しています。この追跡網はロケット打ち上げのみならず衛星に対する管制を行う際にも利用されており、まさに宇宙開発に必要不可欠なシステムだと言えます。弾道ミサイルの発射でもデータの採取には同じような仕組みが必要になりますが、商業ベースになりうるロケットと違ってこちらは諸元を他国に知られるのは都合がわるい上に、純軍事的行動なので他国の協力を取り付けられる保証もありません。そこで、何処にでも移動できるミサイル追跡艦が地上局の代わりとして利用されるというわけです。故に、通常の地上局で事足りるならば必ずしも弾道ミサイル開発にミサイル追跡艦を整備する必要はないと言えます。

(↑JAXAの追跡管制網)
 今回ロシアが想定しているミサイル追跡艦のスペックは例によって極海での作戦能力が要求されていますが、同時に"無限の航続力"という核動力を連想させるキーワードが提示されています。高度な観測機器を備えるミサイル追跡艦では、航続距離以外にも電力の供給面においても通常動力艦にはないメリットを享受できるのではないでしょうか。また、乗組員は30名+105名ということですが、"マーシャル・クリロフ"は乗員約350名なので大幅な省力化を目指していることが伺えますが、同時に船のサイズが縮小されています。
 近年、ロシアも戦略兵器の更新を行っているので新型ミサイル追跡艦の建造はそれに対する備えでしょうか。

ロシアはミストラル級にKa-52Kの搭載を計画している

 イズベスチヤの報道によると、ロシアはミストラル級の搭載ヘリとしてKa-52の海軍版を用意する計画があるとのことです。

(↑Ka-52"アリゲーター")
 国防大臣代理のユーリー・ボリソフ氏はProgress Arsenyev Aviation社を訪問中にKa-52"アリゲーター"を陸軍に供給する計画及びその海軍版を供給する計画について述べました。
 2011年に国防省が調印した契約によると、2020年までに国防省は146機のKa-52を受領することになっています。代理人は更に32機のKa-52を"ミストラル"のために購入することを計画しています。「製造工場は146機のKa-52"アリゲーター"を2020年までに供給するという長期契約を請け負っており、更に32機の海軍型Ka-52を32機製造する計画もあります。」ボリソフは取材者に語りました。
 ヘリ空母"ミストラル"は16機のヘリコプターを搭載可能です。従って、Progress Arsenyev Aviation社との新しい契約でミストラル級2隻の航空装備を満たすことが出来ます。ロシア向けミストラル級1番艦"ウラジオストク"は2014年秋にロシアへ引き渡されます。また、2番艦"セヴァストーポリ"は2016年までに海軍が受領します。
 2隻分の航空装備を購入する費用は320億ルーブルであると戦略技術分析センターの専門家であるコンスタンティン・マキエンコ氏が試算しています。2011年に146機のKa-52に関する契約がなされた時は、合計1200億ルーブル以上になると見積もられていました。これはヘリコプター1機あたり8億5000万ルーブルという価格になります。インフレ及びと艦載ヘリコプターの技術データの変更を考慮に入れると、価格はより高騰し1機あたり9億5000万から10億ルーブルになるでしょう。
 Ka-52"アリゲーター"はロシア最新の戦闘ヘリであり、国家防衛命令の枠組みの中で国防省に供給されます。"Helicopters of Russia"の存在は国営武器輸出公社"ロスアバルンエクスポルト"によるヘリコプター輸出の可能性を秘めていると考えられ、Ka-52が国際市場に提供されうるとみなされるとイズベスチヤのスポークスマンは述べています。
 Progress Arsenyev Aviation社はRussian Helicopters社の持株会社で、同社は標準的な偵察攻撃ヘリコプターKa-52やスポーツ航空機Yak-54や"モスキート"対艦ミサイルを取り扱っています。また同社は艦載ヘリコプターKa-52Kと多用途ヘリコプターKa-62についても計画しています。
 "Helicopters of Russia"はOboronprom社(州企業"Rosteh"の一部)の子会社として2007年に設立され、国内のヘリコプター産業企業に複合体となっています。
 2014年3月にフランス外務相ローラン・ファビウスは2011年に交わされた2隻のミストラル級建造の契約について「ロシアとウクライナの衝突により破棄する可能性がある」と述べました。バルト造船所で起工された1番艦のブロックはフランスに送られDCNS社で他のコンポーネントと統合されます。2013年10月に同艦は試験を行い、2014年にロシア海軍へ引き渡される予定です。2番艦の供給は6月にフランスの造船所で同じような作業を行うことを意味しますが、フランスが失敗した場合でもロシアは直ちに自力で作業を完遂することが出来ます。「フランスが作業に失敗した場合は我々自身で同じ船をつくり上げることになります。"ミストラル"の主要部分に関する文書を彼らから得ているのです。もしフランスが契約の履行を拒否しミストラル級の代金を返還した場合、彼らはこの文章に関する権利を失うことになるでしょう。」ロシア国営造船グループ(USC)代表はそう述べました。仮にフランスがミストラル級の供給を拒んだ場合、海軍の興味を惹きつけつつUSCが自力で建造することになります。その契約で2隻の艦が建造されるのでしょうか?ロシアは既に約半額の1.2億ユーロを支払っています。

(↑ミストラル級)

 ロシアはミストラル級の艦載機にKa-52を想定しているようですが、Ka-52は攻撃ヘリであって当然他の種類のヘリコプターも搭載されるはずです。例えば上陸作戦には輸送ヘリコプターによる立体的な輸送が欠かせませんし、艦隊の中核として行動するなら自艦の搭載力を活かして艦隊の対潜ヘリコプターの集中運用を行うことも有るかもしれません。ミストラル級の航空機搭載量はオリジナルで中・大型ヘリコプター16機とされていますので32機のKa-52が調達されれば確かにミストラル級2隻分となりますが、この数字は恐らく訓練・予備機を含んだ調達機数であって実際に1隻に16機のKa-52が搭載されることはないでしょう。ミストラル級搭載用に塩害対策などを施した汎用ヘリコプターが必要になりますが、記事中で紹介されてるKa-62は民生向けのようです。
 Ka-52K"カトレン"は価格が1機あたり9億5000万〜10億ルーブルを見込んでいるということで、日本円で約30億円前後になります。艦載型という切り口から見てみると、日本の最新鋭哨戒ヘリSH-60Kは平成19年度予算で約66億円であり幾分と高価ですがSH-60Kの価格は市場規模を考えれば致し方無いでしょう。艦載型の攻撃ヘリという種別で比較してみると、アメリ海兵隊のAH-1Z"ヴァイパー"はユニットコストが新造機で約31億円(3,100万USドル)であり、Ka-52Kは最新世代の攻撃ヘリとして妥当な値段に収まっていると言えそうです。同機にはオリジナルのKa-52に対して腐食・塩害対策、ローター折りたたみ機構、不時着水に備えた搭乗員防護システム、緊急着水システムを備えています。
 Ka-52KもオリジナルKa-52もロシア海軍哨戒ヘリ伝統?の同軸反転式ローターを装備していますが、Ka-62は通常のローターを装備しています。