光帆船実験機IKAROS(イカロス)

 先日小惑星探査機はやぶさが帰還した折に「はやぶさイオンエンジンのテストも兼ねていた」と書いていました。なぜにイオンエンジンを搭載したかというと、イオンエンジンは通常の化学反応を利用したロケットよりも少ない燃料で飛行することができるからです。イオンエンジンは言い換えれば、「より少ない質量の燃料で効率的に働くエンジンだ」と言えます。もちろん現段階だと空気との摩擦などが発生する大気圏内の飛行まで任せられませんが。効率的に働くエンジンを探査機に搭載すれば、今までは燃料に回していた空間に観測機器を詰め込んだり、同じ質量の燃料でより遠くに行ったり往復することができるようになります。そんな訳で、イオンエンジンは今注目されているのです。先日も書いた通り、打ち上げ時のH-?Bロケットの全質量は約550t。うち458tは推進剤(燃料)とそれを燃焼させる液体酸素で占められています。にもかかわらず、衛星軌道に投入できるペイロード(積載物)の質量は19t程にしか過ぎません。この場合は地球の重力を振り切る必要があるとはいえ、このような化学ロケット(燃焼も化学反応の一種なのでこう呼ばれます)が結構非効率なことが分かります。

(↑H-2Bロケット)
 イオンエンジンについての説明はまた機会があればと言うことにして、感じるであろう疑問は「イオンエンジンである意義って何なんですか?他のじゃダメなんですか?」ということでしょう。もちろん、「より少ない質量の燃料で効率的に働く推進システム」は他にも考案されています。そのひとつが光帆船と呼ばれる形態の宇宙機であり、その実験機がJAXAの光帆船実験機IKAROSイカロス)です。

 探査機を打ち上げるロケットからすれば燃料もペイロードなので、燃料のペイロードに占める割合が小さくなればなるほど観測機器や輸送に使えるペイロードを増やすことが出来ます。イオンエンジンは化学ロケットより遥かに効率的とは言え、推進剤を搭載しています(はやぶさイオンエンジン”μ10”の場合はキセノン)。推進剤を使わずに姿勢制御とか軌道修正ができたらいいのに・・・・・・。できるんです。そう。光帆船ならね!

 光帆船の原理は簡単で、物体に電磁波が照射された際に発生する力”光圧”(”輻射圧”とも)を利用します。凧を思い浮かべてください。アレは風を利用して揚力を発生させて飛びますが、その凧に電磁波が当たり続けることで飛ぶと考えると分かりやすいでしょう。ちなみにこの光圧は電磁波が照射される面積に比例するので圧力として考えることが出来ます。でも実際に生活してて光圧を感じることはありません。なんたって地球付近での太陽光の輻射圧は5μPa足らずです(100m四方の面に5gの荷重がかかる)。ましてや蛍光灯程度では光圧など・・・・・。ですが、継続して光をあてることができるならば、軌道上でイオンエンジンのように使用することも可能です。

 そんな訳で金星探査機「あかつき」とH-?A17号機で相乗りで打ち上げられたのがIKAROSアレゲな名前ですが、「太陽光で加速する惑星間航行凧式宇宙船」を意味する英語の略語です。

真田さん「こんなこともあろうかとギリシャ神話とかぶる名前を考えておいたんだよ」
まあギリシャ神話のイカロスを意識してるんでしょうけどね。

 で、JAXAIKAROSで何がやりたいかというと、光帆船を飛ばしたいんです。実は、今までに航行に成功した太陽光帆船は1台もありません。JAXAIKAROSを「世界初航行に成功した太陽光帆船」にしたくて打ち上げるんです。ここがはやぶさイオンエンジンとは若干異なる点です。イオンエンジンはただ単に「長時間稼動実績が無い(あるいは乏しい)」というだけで、はやぶさ以前にも探査機に採用されてきました。なのでIKAROSはかなりの確率で成功するとは言えないミッションです。ちなみに、IKAROSに張り付けられている太陽電池は薄さ25μmの薄型で、宇宙空間では今まで使われたことの無いタイプです。こんなところでも世界初なIKAROSでした。ちなみにこの電池の稼働を確認するのも目的の一つです。


 太陽光帆船全般に付いての話はさておき、IKAROSですが、対角線20mの正方形をしていて、凧になる部分の厚みは僅か7.5μmです。正方形の四隅にはおもりが付いていて、打ち上げ後自転により発生する遠心力で膜が展開されるようになっています。特徴的なのは機器類が膜状に取り付けられているため本当に「凧」にしか見えない点でしょうか。そして、先日膜の展開に成功したIKAROSです。


↓のCGの青い部分が太陽電池パネル、黄色い部分は姿勢制御用回路が組み込まれている部分。打ち上げ時には全て巻き取られています。


 今後、IKAROSは半年ほどかけて光帆船として宇宙船を操作できるかどうかを試験します。もし成功すれば世界初、航行に成功した光帆船としてまたマスコミでも取り上げるでしょう。JAXAは、これらの技術を元に計画中の木星探査機を作りたいとしています。太陽光帆船とイオンエンジンを組み合わせることでより効率的に飛行できると言うわけです。

 ちなみに、アメリカも「ライトセイル1号」という凧の大きさ約5.5mで高度800km上空の地球周回軌道を回る太陽光帆船を今年末に打ち上げ予定です。


リンク:JAXA「〜翼を広げて〜 IKAROS(イカロス)専門チャンネル」