中国の空母"施琅"(旧ワリャーグ)がほぼ完成した模様

 朝日新聞の記事によると、8月3日に「数百人の兵士らが参加した式典」があり共産党中央軍事委員会高官が空母"施琅"の完成を視察したとのこと。また、その朝日新聞の記事によると「党軍事委高官による現地視察が確認されたのは初めて」だということで、本格的に改装が終了したことを予見させます。別の朝日新聞の記事では「改修のために組まれていた足場が外された」と記述されており、これを裏付けます。
 ギズモード・ジャパンでも空母の各設備が稼働している様子がリークされているという内容の記事が書かれ、やはり完成もしくはほぼ完成したと考えられます。

 新華社通信もこの7月の月末で空母"施琅"関連の記事を連発しており、やはり完成の臭いを感じさせます。その記事の一つでは”この古い空母「ワリャーグ」”という表現がされており、暗に直接的な軍事利用が目的ではない、あるいは旧式な空母が1隻中国に有ったところで大した脅威にはならないという主張を感じます。
また

国の海上の安全を守り、領海主権と海洋権益を守ることは、中国軍の神聖な職責である。中国が空母を開発するのは、国の安全と世界の平和を守る能力を強化するためだ。
空母は現在人類が掌握使用している最も先進的な海上軍事装備で、総合国力と海軍の実力を示す象徴とみられている。
国連安全保障理事会常任理事国とブリックス4カ国(BRICs=ブラジル、ロシア、インド、中国)のなかで空母を持っていないのは中国だけだ。
中国は広大な領海を持っており、領海を守る責任は重大だ
空母の研究と建造は中国の国防科学技術レベルを示すもので、中国軍の近代化を促すことに重要な役割を果すことになろう。
中国は抑止的な国防政策を断固として推進しており、海軍の近海防御戦略も変わっていない
国は平和発展の道を断固として歩んでおり、この平和発展の道がある兵器の出現によって変わることはない。
空母開発の第一歩を踏み出したのは、中国が世界の海洋の安全を守り、世界の平和を促そうとしていることを示すものだ
などと主張しており、空母の自衛目的での使用や中国の空母理由を正当とする理由、技術波及効果に言及しています。また、中国メディアは他国も空母を保有していることを引き合いに(ひゅうが型DDHもしっかりカウントされています)正当性を主張する試みや帝国海軍が空母を保有していたことを理由に中国の空母保有に問題はないとする記事も執筆しています。もっとも、アジア圏の空母はいわゆるVTOL/ヘリ空母ばかりですが。

 また、中国国防省は「主な建造目的は科学的な研究調査活動を進めることにある」との声明を発表し、他国の脅威にはならないとの見解を示しています。その空母"施琅"の方は「艦上に近接防空ミサイルやガトリング砲が多数用意されて、近づく艦船や航空機を迎撃可能な艦載兵器の充実ぶりが伝えられています。フレネルレンズ式着艦誘導装置を含む空母としての必要装備も着実に備えているそうですね。」(ギズモード・ジャパン)とのことで、本格的空母の能力をひと通り備えているようです。
 就役は2012年からとのことで、まずは殲撃15の完成を待ってパイロット養成・国威掲揚に努め、次は完全な空母の国産を目指し、"施琅"の保有を既成事実として数を増やしていく方針なのでしょうか。いずれにしろ、成長真っ只中の中国が1隻だけで空母を諦めるとは考えにくいので、数を増やすのは間違いないでしょう。

 にしても、”科学的な研究調査活動”が目的だって公言してるのに「中国は広大な領海を持っており、領海を守る責任は重大だ」→「空母が必要」の論理に持っていくのはちょっと露骨な気が・・・


(↑空母クズネツォフ)
 空母"施琅"はソ連が建造していた空母"ワリャーグ"をウクライナから中国が取得して改装したもの。"ワリャーグ"はロシア海軍で現役のアドミラル・クズネツォフ(プロジェクト11435)の準同型艦で、進水し現在のウクライナで艤装中にソ連崩壊を迎えた。ソ連崩壊直前にウクライナが独立を表明したが、当時ソ連海軍黒海艦隊の本拠地セヴァストーポリ(現ウクライナ)にはアドミラル・クズネツォフと艤装中のワリャーグが存在した。アドミラル・クズネツォフは数カ月前に北方艦隊へ編入されていたが、その時点では人員不足で黒海から移動していなかった。ソ連崩壊直前に人員不足のままアドミラル・クズネツォフは出港しダータネルス海峡通過したが、ウクライナアドミラル・クズネツォフワリャーグの所有権を主張し「ウクライナの財産であるから直ちに戻れ」と命令した。これに対して北方艦隊副司令官が直々にアドミラル・クズネツォフに乗り込み「直ちにセヴェロモルスクへ向かえ」との命令を下し、アドミラル・クズネツォフは難を逃れた。
 一方、当時艤装中で移動できなかったワリャーグはそのままウクライナに接収され(アドミラル・クズネツォフは北方艦隊所属に変更されていたためソ連も所有権を主張できたが、ワリャーグ編入前だった)たが、ウクライナに運用できるわけもなく、中国へスクラップ名目で売却された。中国はこれを元に大規模な改装を施し"施琅"へ仕立てた。
 ワリャーグ購入前にも中国はオーストラリアの空母メルボルンキエフ級空母1番艦キエフと2番艦ミンスクを購入し念入りに調査して空母建造の参考にしています(全てスクラップ名義で購入しています)。これらの経験を元に中国は24機程度の艦載機を運用する国産空母の建造に中国は着手しますが、ワリャーグ入手のめどが立ったためこれを中止しています。つまり、最初からワリャーグを改造して使うことを視野に入れていました。後に中国はワリャーグに関する技術的資料も購入し、ワリャーグを建造した造船所の技術者を招聘して改造に乗り出しました。改造は順風満帆とは行かなかったようですが、結果どうなったかは現在のとおりです。

(↑殲撃15の模型)
 空母"施琅"が額面通り練習空母として使われるならば、恐らく大連艦艇学院所属になるとのこと。実働部隊に参加するとなれば国威掲揚はもちろん台湾有事の際の援護やシーレーン防衛や遠洋作戦時の海上基地的役割さらに領土問題での圧力や島嶼戦での参加、米軍に対するアクセス拒否能力の強化を期待されてるものと思われます。