改良型R-29"ライナー"SLBMはブラヴァーを代替するものではない

 現在ロシアは三種類の新しいSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)を開発・運用しています。一つはボレイ級戦略原潜に搭載するブラヴァー(R-30・SS-NX-30)、既存のデルタ級向けR-29ミサイルのアップデート型の”シネーワ”(R-29RMU)、さらにシネーワの発展型の”ライナー”です。このうちシネーワはすでに運用されていますが、ブラヴァーは今年中に実用化予定で、ライナーは未だ開発中で2011年5月20日に北方艦隊のK-84 エカテリンブルク(プロジェクト667BDRM/デルタIV型)から試射が行われました。なお、エカテリンブルクは7月27日にシネーワの発射にも成功しています。

(↑R-29RMの発射)
 この”ライナー”ですが、ブラヴァーと比較され「ライナーが有るならブラヴァーは不要ではないか」という意見が存在するようで、Flot PROMでは「ライナーはブラヴァーを代替するものではない」と8月9日にロシア軍のスポークスマンがRIAノーボスチに語ったという記事が書かれています。
スポークスマンはライナーがブラヴァーを置き換えるべきでない理由として
 ・液体燃料のライナーは固体燃料のブラヴァーよりも射程が長いが、これからは固体燃料を使用すべきである
 ・将来における発展性や陳腐化
を挙げてこれらの意見を牽制しました。同時に、ロシア海軍はまだ液体燃料ロケットも求めていると明言したものの、ブラヴァーが安定した成績を見せている以上、もはやロシアの固体燃料ロケット技術は以前ほど経験不足で未熟ではないことは明らかです。
 「私たちの液体燃料ロケットで武装した潜水艦は戦い続ける。プロジェクト667BDRMとシネーワ及びライナーは高度な性能を保ったまま何年も水中に戦隊として存在し続けることが出来ます」とスポークスマンは語りました。
 また、Flot PROMはライナーはアメリカの"トライデント2"SLBMに劣らない性能であり、中間エンジンは中国・アメリカ・イギリス・フランス・ロシアの各種のミサイルよりハイパワーだとさえ書いています。

(↑トライデント2の発射)

 ライナーはブラヴァーよりも少ない人数で運用可能とされ、最大6個の弾頭を搭載可能です。異なる出力の核弾頭を混載可能だということです。
 シネーワとライナーの登場により、北方艦隊に配備されているプロジェクト667BDRM(デルタIV級)は就役期間をさらに延長して2025〜2030年まで現役にとどまることが出来る可能性も出てきました。
「多数の戦力を備えることは我々が軍事的・政治的状況の変化に備えることを可能にします」とマキーエフロケット設計局(国立ロケットセンター)の局長は述べました。

(↑デルタ3級のイメージ)

 ロシアにとって、改良し続けているとは言え1972年に就役したプロジェクト667B(デルタ1級)に由来するR-29を置き換えることは命題でした。特に一次核攻撃で壊滅する可能性のある陸上核戦力のバックアップとなり二次報復力を担う水中核戦力は冷戦時代特に重要で、長期間にわたり建造が続けられたデルタ級と共にR-29も改良型が作られ使われていきました。そもそも、R-29とデルタ級はヤンキー級(プロジェクト667A)と従来型ミサイルの発展であるR-27の組み合わせは射程や発展性に限界があることから、新規設計されたものです。一段式のR-27と比べて多段式のR-29は打撃力や射程において優れていました。
 このためR-29は発展性に優れており、ミサイルに合わせて艦体を設計する戦略原潜自体を新しく設計する必要も長い間ありませんでした。しかし、R-39とタイフーン級が数的に揃えられなかったこと、R-39の1段目生産工場がウクライナ領となりミサイルの生産が不可能になったこと、タイフーン級向け新型ミサイル”バルク”の開発中止、古いデルタ級の退役によりロシア海軍戦略原潜の数を維持することができなくなり、結果として残存するデルタ級の能力向上か新型戦略原潜とミサイルの開発が選択肢として残りましたが、バルクとタイフーン級の組み合わせの代わりとしてボレイ級とブラヴァーがすでに開発途上であったことからそちらへ傾注しました。一方でR-29の改良も怠らなかったため、今のような状態になりました。また、ロシア海軍の固体燃料の採用はR-39の時に液体燃料を制して十分な性能を確保したことですでに決定したようなものですが、液体燃料は腐食性と燃料漏洩火災の危険があり、推力が小さく燃焼の調節が難しいものの即応性と保存性に優れ構造も簡単な固体燃料が”世界標準”であり、それに従うようになったまでです。ソ連は以前にも固体燃料のR-31を製造していましたが、納得のいく性能ではありませんでした。

(↑ボレイ級/プロジェクト955)
 ロシア海軍にとってデルタ級とR-29改はボレイ級とR-30よりも古いものの、重要な戦力であり今後も維持していく方針であるのは間違い有りません。

(↑R-29RM)
 "ライナー"は比較的新しいミサイルなので情報は少ないですが、2011年にテストが開発されたこと・弾頭は最大6個搭載可能で異なる種類の弾頭を搭載可能であり、射程に関してはR-29RMUと比べ大きな変化がないことが推測されます。