ウクライナ海軍唯一の潜水艦”ザポリージャ”は修理を完了した

 ウクライナ海軍海軍がソ連崩壊後にロシア海軍黒海艦隊から譲り受けた潜水艦”U-01 ザポリージャ”の修理が完了しました。(flot.com)今回の修理は黒海艦隊の第13艦船修理工場でロシア海軍の協力の下で実行され、2009年頃から修理が行われていたものですが、ザポリージャウクライナ海軍に譲渡された1997年以来事実上潜水艦として機能していませんでした。
 ではかれこれ20数年も何をやっていたのかというと”修理”です・・・。ザポリージャを運用する上でウクライナ海軍にとって最初の問題はロシアから引き渡された時点で潜水艦に蓄電池が装備されていなかったことです。これではシュノーケル深度以上に潜れないわけで、蓄電池の調達に奔走することになります。ロシアから調達を試みるも断られ、ギリシャから調達することになりました。2003年の2月にウクライナ海軍での進水式が行われ、蓄電池が到着し次第搭載することになりました。3月にはザポリージャを対潜訓練目的や潜水艦の運用のため今後も保有することが正式に決定され、ウクライナ海軍の潜水艦運用に関する機運が高まります。

(↑”U-01 ザポリージャ”)
 2003年3月31日にザポリージャロシア海軍黒海艦隊の第13艦船修理工場に入渠したものの、予算不足で工事は進まず2006年には「金食い虫」だとして未完成のスラヴァ級4番艦”ウクライナ”と共に「退役させるべき艦」と当時のフルィツェーンコ国防相の槍玉にあげられることになります。インドネシア海軍やリビア海軍が本艦の購入に興味を示したとされ、一時は修理も売却のためだとされたものの2008年当時のイェハヌーロウ国防相ザポリージャ売却を全否定し、2009年には洋上試験が行われると発表しました。しかしやはり資金不足で工事は進まず、それでも2008年末時点で工事進捗状況は75%に達していました。2009年には船体の修理が行われ、工事進捗状況は83%に達した。2010年にはレーダーやソナーや通信装置を換装し蓄電池も搭載した。また、ロシア海軍もザポリージャの復旧に積極的に協力することを発表し、ロシア海軍黒海艦隊の潜水艦”B-871 アルローサ”でザポリージャの士官4名が訓練を受けて就役に備えました。2010年末にはザポリージャエンジンテストを開始し、翌年の2011年1月には「テストの第一段階」を完了し、兵装に関する「第二段階」のテストを行う予定でしたが、不具合に見まわれ2011年5月に予定されていた復帰はなりませんでした。

(↑エンジンテスト中のザポリージャ
 一応、これでロシア海軍黒海艦隊時代の1996年(修理完了するも蓄電池未搭載)から20数年続いた不完全な状態から、ようやく抜け出せたことになるでしょう。”修理”というよりはFRAMどころか完全なオーバーホールですが、ウクライナ海軍はその間葛藤しながらも潜水艦を保有することにこだわり続けてきました。その理由は2003年のザポリージャ保有に関する閣議決定にあった「潜水艦という兵科の存続、対潜訓練目的」というのももちろんですが潜水艦を「(勢いのある国という意味での)大国としての象徴」として位置づけてきたからです。黒海沿岸のトルコ、ロシア、ルーマニアブルガリアは何らかの実働する潜水艦戦力を保有しており、一方で”勢いのない”ウクライナの潜水艦は岸に係留されている・・・栄光有るウクライナにはザポリージャが必要だ、というわけです。
 しかし、現実的には黒海周辺で潜水艦が必要になるかといえば現状ではそういう状況ではないように思えますし、フォックストロット級であるザポリージャは旧式艦です。ザポリージャを除いて最後の運用されていたフォックストロット級はインドのカルヴァリ級であり、2隻練習潜水艦として使用されていましたがこれらは2010年に退役しています。ザポリージャは艦齢42年のご老体であり、もし実戦部隊に所属するならば、朝鮮人民海軍のロメオ級潜水艦や台湾海軍の艦齢60年の大台に乗る”海獅””海豹”と並ぶ高齢艦になります。これは運用する上で問題になりますし、人材の育成や基地の整備なども必要になりますがウクライナにはこれらのノウハウがありません。ウクライナの関係者によれば「この問題にはロシアと共同で対処するだろう」と述べています。

 なお、ザポリージャの一連の経緯はWikipediaによくまとまっています。