セヴァストポリ級(ロシア向けミストラル級)3・4番艦建造の契約締結に問題はない

 Rosoboronexportの取締役のAnatoly Isaikinはロシアがフランスと共同建造するミストラル強襲揚陸艦の3・4番艦の建造に関する契約締結に関して何ら問題は存在しないと強調しました(flot.com)。
 「プロジェクトは計画に従って進行しており、協議も順調です。我々が現在、3・4番艦建造に関する契約を締結するのにためらう理由は存在しません。建造は、ロシアが80%を担当します。」彼は述べました。(ロシア向け1番艦はセヴァストポリと艦名が決定されているため、ロシア向けを”セヴァストポリ級”、フランスの原型艦を”ミストラル級”と以下では両者を区別しています。) 

(↑ミストラル級)
 ミストラル級1・2番艦の建造に関する契約は2011年6月に締結されました。この際にはフランスが船体の建造のみを許可しようとしたのに対してロシア側は「ミストラル級全て」、つまり電子機器など”内側”に関してもライセンスを要求しました。長きに渡る協議の末、結果として電子機器のなかでも特に焦点となった戦闘情報指揮システム” SENIT-9”および作戦指揮システム”SIC-21”はロシアに給与されることになりました。SENIT-9はフランスの独自システムでSIC-21はNATO互換のデータリンクシステムです。
 またこれと同時に、1および2番艦はフランス主導で建造され、3および4番艦はロシア主導で建造することで両国が合意しました。したがって、1・2番艦の建造に関する契約と3・4番艦の建造に関する契約は一部差異があるため別々に締結することにしたのでしょう。
 なお、1・2番艦はサン・ナゼール造船所が主として建造し作業の一部をロシア国内のアドミラルティ造船所またはセヴマシュで担当します。3・4番艦はロシア国内のアドミラルティ造船所またはセヴマシュで建造されます。
 
 1・2番艦の建造は12億ユーロで行われ、1番艦は2012年2月1日に起工されています。1番艦は2014年にロシア海軍に就役する予定で、2番艦も2015年に後を追う予定です。
 

(↑ミストラル級) 
 ミストラル級はフランスでは強襲揚陸艦・多目的指揮艦として運用されていますが、ロシア海軍では異なった運用をされることになります。ロシア海軍総司令官のウラジーミル・ヴィソツキー大将はミストラル級について「フランス海軍の為に建造された同種の艦には兵器が無い」とまで言い切り、しかもセヴァストポリ級に搭載される武装は「超音速有翼ミサイル発射装置、最新の対ミサイル及び対空及び対潜防衛複合体」を含む重量級です。
 ロシア軍参謀本部の某はロシアがミストラル級に重武装を求める理由を次のように説明しています。
 ”「我々には、フランス海軍が有しているような非武装のヘリコプター揚陸ドック艦は必要はありません。
ミストラルは、本質的に、最新の戦闘・航海・情報・通信管理システムを備えた巨大な浮上トランスポーターであり、海洋および空中において、他の戦闘艦と航空隊をカバーする為に必要な、申し分のない浮かぶ指揮所です」”
”「ヘリコプター揚陸ドック艦は、沿岸地への海軍歩兵の装甲車両やヘリコプター、揚陸艇による上陸のみならず、我が海軍が有している様々な分野の海軍グループ(水上艦、潜水艦、海軍航空隊)の行動、更には、異なるグループの海洋及び大洋という舞台における軍事行動を統制します。
これらのグループの多機能戦闘艦の充分な安全を確保する為に、(ヘリコプター揚陸ドック艦)自身が十分な火力と打撃力を有している必要があります」”(ここより引用)

 ロシア側としては、セヴァストポリ級には揚陸艦ではなく”多目的指揮艦・火力投射艦”としての能力を強く求めているようです。ロシアのセヴァストポリ級に関する報道ではほぼ必ず、多量の艦載兵器を搭載することとヘリコプターの本格的な運用能力を持つことおよび強力な指揮能力で人道支援を含めた大規模・広範囲な作戦行動を効率化できることが強調されていますが、揚陸能力についてはカタログスペックの記述以外ではあまり言及されていません。
 いわば、ロシアにとってのウラジオストク級は、1つの艦に従来の巡洋艦の火力やモスクワ級の様なヘリ空母の役割、そして米第7艦隊旗艦のブルーリッジなどの指揮能力を詰め込んだ艦だと思われます。ここまで詰め込むと揚陸能力を維持しているのかどうか疑わしくなるレベルです。(ただし黒海艦隊はグルジア紛争時の輸送能力の低さから”揚陸艦としての”ミストラル級を欲するような発言を行なっていました。また現在のところセヴァストポリ級は太平洋艦隊と北方艦隊に配備される予定です。)

(↑モスクワ級) 
 とにかく、”ミストラル級”と”セヴァストポリ級”はF-16F-2の様に外見は似ていても中身は別物で、単純な揚陸艦ではなくマルチロール艦であるということに間違いはないはずです。
 某巨大掲示板スレタイのように”(強襲揚陸艦だから)北海道終了”なのではなく、どちらかと言うと”(ロシア海軍前線の情報処理能力が向上して部隊全般の効率が良くなるから)北海道終了”でしょう。