米韓ミサイル指針見直しで、ミサイルの射程は800kmまで延長

 韓国の保有する長射程ミサイルの性能を制限する、米韓間の覚書である”米韓ミサイル指針”を改定・緩和することが各所で報じられています。
 
 そもそも、”米韓ミサイル指針”(ミサイル協定とも)は北朝鮮側を韓国が無闇に刺激することを避け、韓国の弾道ミサイルという厄介な兵器の開発を自分の支配下に置きたいというアメリカの思惑で1979年に初めて設定され、、2001年に「射程距離は300キロメートル以内、弾頭重量は500キログラム以内」と制限が緩和されましたされました。これが今回改定される前の規制で、制限の対象は弾道ミサイル及びUAVに限られていました。そこで、韓国軍はいわば”抜け道”である巡航ミサイルを開発し長射程化することで北朝鮮に対抗を図って来ましたが、韓国側はこの制限を「北との戦力不均衡だ」と主張し2009年の北朝鮮テポドン2発射以来指針改定をアメリカ側に打診していました。また、この制限がUAVにも適用され、無人機の搭載重量も500kgまでと定められていたため、事実上無人攻撃機など発展的なUAVは使用不可能でしたが今回の緩和でUAVの使用も便利になるとされています。
 
 さて、緩和された米韓ミサイル指針の内容はどのようなものなのでしょうか?最大射程は800kmまで延長されます(韓国は1000kmを主張)がその場合の弾頭重量は500kg以内で、ここは従来と同様です(ちなみに、この500kg制限は1979年以来変わっていません。弾頭重量は通常弾頭の威力と核兵器の搭載の可否を左右するからでしょう)。しかし射程を短くすればするほど弾頭重量は増やせることになり、例えば射程300km(玄武-2クラス)だと1.5トン〜2トンの弾頭を載せることができるようです。また、無人機の制限自体は存在するもののミサイルとは別枠で規制が行われることとなり、搭載重量が最大2.5トンのUAVまでが認可されます。

(↑韓国の弾道ミサイル”玄武-2B”) 

 この”新・米韓ミサイル指針”で状況はどのように変わるのでしょうか。
 まず弾道ミサイルですが、韓国は現在国産の”玄武-1”、”玄武-2A”、”玄武-2B”の三種類と米国製の”MGM-140 ATACMS”を保有しています。玄武-1はナイキ・ハーキュリーズSAMを改造したもので、射程が180kmと比較的短く、38度線付近から平壌付近や長距離砲陣地などを攻撃することを想定しているようです。玄武-2Aは玄武-1の改良型で、射程を300kmに延長したほかサイロからの発射に対応したタイプ。玄武-2Bは2009年末から実戦配備されていますが、米ロ戦略兵器削減条約に基づき余剰となり廃棄を依頼されたロシアのSS-21を不正に取得しそこから得た技術で玄武-2Aを改良したとされるものです。見た目はSS-21よりもSS-26(9K720/イスカンデル)に類似しています。

(↑週間オブイェクトより)
ここまで似ていると単純にSS-21の技術だけで改良されたとは思えません。射程は300ないし500km(この場合、当然ミサイル指針違反になりますが韓国では日常茶飯事です)とされ、LETと固形燃料化により即応性に優れ、慣性航法装置の導入により並の誘導精度を持つに至ったということです。着弾した子弾の展開も綺麗な同心円状で、性能は一定水準に達しているようです。
 緩和後の条件に照らし合わせれば、玄武-2クラスでは弾頭重量を増やしての火力アップ、玄武-2Bの射程の延長を正々堂々とできます。相応の運搬能力を付与することが出来れば、ですが。玄武-1は旧式で、ATACMSで更新中です。ATACMSは米国製なので、LANTIRNを分解したような暴挙をもってATACMSに接しなければ手のつけようがないはずです。
 
 次は巡航ミサイルです。
 巡航ミサイルにはあたかも制限がないかのような書き方を冒頭でしましたが、射程の制限はないものの実際には弾頭重量の制限があります。2012年の改定により「射程300km以下のミサイルにおいては弾頭重量無制限、射程300km以上の場合は500kgまで」の開発と保有が認められました。
 現在、韓国軍は”玄武-3”シリーズの巡航ミサイル保有しています。発射プラットフォームの違う派生型の他、射程に応じて3A(500km)、3B(1000km)、3C(1500km)の三種類があり、3Aと3Cが実験配備されていると言われます。ソウルから見て北朝鮮全域は500km以内、北京は920kmにあるため、玄武-2Bおよび玄武-3で北朝鮮全域を攻撃することができます。しかし、いざ戦端が開かれた場合にはソウルは安全とは言えないため、報復戦力と予備戦力を南部に温存するためにもミサイルの射程を延長することは必要でした。800kmの根拠は、韓国中部からミサイルを発射して北朝鮮全域を射程に収めることです。一方1000kmだと、南部から発射しても北朝鮮全域を攻撃できます。しかし、無制限に射程延長を許せば日本や中国を刺激する可能性は俄然高まり、特に北京を射程に収めることはあまり良い事態ではないので当分の間弾道ミサイルは射程据え置きで、巡航ミサイルは韓国の技術次第でしょう。

(↑韓国国産のUAVたち) 

 最も状況が変わるのはUAV分野では無いでしょうか。韓国には米韓ミサイル指針を守る意志はあまり感じられず、現に1999年に発射を行ったミサイルは射程をミサイル指針に適合するように偽っていたとアメリカは判断し、玄武-2Bも当初言われていた射程500kmであればミサイル指針違反です。裏で何をコソコソやっているのか得体のしれない国がおおっぴらに開発したものを見せびらかせるようになったというだけの可能性もあり、あまりぱっとしません。
 それに対してUAVは、韓国も開発経験に乏しいため本格的なUAVの開発・調達はモロにミサイル指針の影響を受けます。第三国経由でUAVを入手してリバースエンジニアリングしないかぎり(ソフトウエアまではコピーできないだろうし)、技術支援で経験を積むしかないからです。従来の搭載量500kg制限では、電子機器や推進器、燃料を搭載すれば、重量級の武装や高度なセンサーを搭載したり、長時間の滞空を可能にするだけの性能を実現することは不可能でした。韓国はイスラエルサーチャーUAVと国産のソンゴルメUAVを若干数装備していますが、いずれも偵察が主目的のようです。今回の改定で搭載量は2.5トンまでが認可されたので、書類の上ではグローバルホークの導入も可能になりました。また、プレデターUAV相当の機体を国産することも検討したものの米国が拒否しており、国産が許されるかプレデターを買わされるのかはともかく能力を最大限に活かすことができそうです。
 
 しかし、韓国軍は予算不足に悩まされており、特に兵器開発においては欠陥品の山と実射テストがお粗末なことで知られています(例えばこんなことも)。韓国の国力と維持しようとしている軍隊の規模を考えれば仕方ないといえば仕方ないのかもしれませんが、無理に開発しておいていざ役に立たないウリナラ兵器では困ります。嬉しくなる可能性があるのは周辺国だけです。例えばUAVでは、先ほどのサーチャーとソンゴルメを操縦ミスで5機墜落させています。この事件の対策について「シミューレーター確保」を挙げているようですが、資金が足りないからシミュレーターをきちんと導入していなかったのかあるいは十分に訓練を受けていない人間に操縦させたのか・・・運用面がむちゃくちゃです。正面装備にこだわり過ぎることは韓国軍の伝統ですが、ある程度経験がありロシアの技術も使っているであろう弾道ミサイルならともかく、UAVはどうなることやら・・・。