ロシア海軍の近未来の展望について

 flot.comによると、国家武器調達プログラム2011-2012において北極海での作戦行動可能な原子力艦と北方の沿岸域で作戦行動に従事する艦船の調達を盛り込んだことをロシア海軍の開発計画部長のVasily Lyashok少将が明かしたようです。
 
 「私たちは北極海方面で長い期間作戦を展開する能力を持つ艦を必要としています。それらの艦には核プラントと適切な氷海での作戦能力が備わっているべきです。これが私達の新しい軍艦に必要な条件です。」少将は13日にエコー・モスクワに対して語りました。
 「次に、私たちは、バレンツ海やカラ海そして北極海のいわゆる沿岸域で活動できる軍艦も必要としています。これらの船舶は良好な作戦環境を保ち、ロシアの海洋経済活動の安全を守ります。」
 「第一に、こういった艦艇はシュトックマンの海底ガス田とその生産プラントの保護のために必要とされるでしょう。この国家武器調達プログラムで、補給艦を含むこういった北方海域に展開する艦船を調達します。」
 また少将は、北方艦隊がサーチ・アンド・レスキュー部隊(捜索救助部隊)を非常事態省(EMERCOM of Russia)と統合運用することに努力していることを取り上げました。
 

(↑”セヴェロドヴィンスク”)
 彼は、新型の攻撃型原潜で北方艦隊に配備予定の”セヴェロドヴィンスク”が2013年に海軍に引き渡されるであろうことにも触れ、「我々全員が戦略原潜ユーリー・ドルゴルーキーと巡航ミサイル原潜セヴェロドヴィンスクの就役を楽しみにしています。それらは2013年の最も顕著な出来事となるでしょう。」と語りました。
 また、今年中に2隻のフリゲート艦(話の展開からしてゴルシコフ級か?)を起工するだろうと付け加えました。


 ミストラル級は2014年に1番艦、2015年に2番艦が太平洋艦隊に引き渡されるだろうと述べられました。外国製のこれらのヘリ空母は”セヴァストーポリ”・”ウラジオストク”と命名されました。「1番艦を2014年、2番艦を2015年に受領することは明白だ」少将は述べました。
 「私たちはこの種の艦船を保有したことがありません。そのため、私たちはこれらの船の理論的・実践的な使用において努力しています。」
 「ミストラル級は、上陸攻撃だけではなく、平和的な任務を含めた広範囲な任務を遂行します。海軍はミストラル級を8年間で受領し終えるでしょう。」彼は付け加えました。

(↑ミストラル級) 

 少将は、沈没したロシア原潜のサルベージ業務が国防省や関連機関に課されているという認識を強調しました。「沈没原潜をサルベージすることは放射線量の状況を鑑みて決定されるだでしょう。」彼はソ連時代にカラ海に自沈させたK-27(液体金属炉搭載の改ノヴェンバー級原潜)と、ロシア時代の2003年にセヴェロドヴィンスクまで解体のため曳航中の退役済みのノヴェンバー級原潜(K-159)をバレンツ海で沈没させてしまった事件を挙げて、「確かに、解体は重要です。これらの原潜も必ず引き上げがなされます。」と述べました。ロシアは諸外国と半永久的に放射線量をモニタリングしており、少将によればまだ引き上げることのできる水準に達していないとのこと。

 
 いわゆる”ステルス技術”はロシア海軍で導入中で、今後もその使用を拡大していきます。「ステルス技術は、新型のプロジェクト20380コルベット、”ステレグシュチイ”で部分的に使用されており、今後は他の艦艇でも広く使用されるでしょう。」少将は述べました。
 
 
 かなり重量級の記事でしたが、今後のロシア海軍での武器調達に関する方針などが記載されています。
 
 まず第一に、北方海域でのロシアの権益保護に従事する極海作戦能力を備えた軍艦の建造です。大洋ゾーン艦に匹敵する規模を持つであろう原子力艦と沿岸作戦向けの艦艇、そして艦隊補給艦を整備するということのようですが、これによりかなり長期間の活動が可能になるため少将も挙げていたガス田の護衛にも威力を発揮することでしょう。ちなみに、シュトックマン海底ガス田は天然ガスLNGを算出するようで、2013年以降欧州にガスを供給するようです。
 
(↑シュトックマン海底の場所)
 ロシアが2050年をめどに整備予定の原子力空母計画でゴルシコフ級フリゲート(プロジェクト22350)の1つ上のクラスを担う1万トン級の駆逐艦原子力化する意向もあるようですし、ロシアは原子力艦の導入に積極的な印象があります。
 
 第二に、セヴェロドヴィンスク級(ヤーセン型/プロジェクト885)とボレイ級(プロジェクト955)に関してですが、順調に計画が進んでいるようです。4番艦以降はSLBM搭載量を増やした955A型として建造され、今後の水中戦略戦力を支えます。一方で、搭載するミサイルは実戦状態に置かれていたことが最近判明したタイフーン級ですが、ブラヴァーの実験に使用されていた”ドミトリー・ドンスコイ”を除く残存する全艦の処遇は未定です。”ドミトリー・ドンスコイ”は実戦任務には復帰しないものの試験艦として余生を送ります。
 
 次にミストラル級ですが、現在判明している情報の中で語り尽くされた感のある話題なのであまり目新しいことはありません。
 
 ロシア原潜の解体に関してですが、かなり多くの艦があまり良好とはいえない環境で保管されていた経緯もあり、環境保護団体が注目しているようです。保管状態にある艦はいずれ解体されますが、問題は沈没させてしまった分で、ノルウェー沖の水深1600mに沈んでしまったK-278(マイク級/プロジェクト685)のようなどうしようもない艦はさておき引き上げられそうな浅海にある奴はサルベージする必要があります。少将がとりあげたK-27とK-159はどちらもノヴェンバー級(と準同型艦)で、K-27は原子炉に一定の封印がなされた後に自沈により投棄され、K-159は全くの事故で沈没しました。
 
 ロシアのステルス艦の代表としてステレグシュチイ級が挙げられていましたが、つい先日同型艦の”ボイキー”が工場試験航海を行いました。同級では舷側まで上部構造物を張り出させ、側面を傾斜させるとともに艦首にはブルワークを備えることでRCSを低減させるという一般的な対電波ステルス技術が採用されています。同様の措置がゴルシコフ級でも採られています。

(↑”ボイキー”)
こういった方法でのステルス化は西側が行い始めたもので、例えば最初の設計段階からステルス性を意識して作られた実用艦として知られるフランス海軍のラファイエット級では、ブルワークは省かれているもののかなり徹底した設計が行われており、RCSは”やや大きいモーターボート並”と例えられることもあります。

(↑”ラファイエット級”)
なお、ステレグシュチイ級は満載排水量が2200トン、ラファイエット級は3600トンと両者とも西側的には大型コルベットフリゲートコルベット以上駆逐艦以下という意味で)の範疇に分類される大きさです。
 また、アメリカのズムウォルト級ではより徹底された設計がなされ、目には従来のステルス艦よりも一層奇異に映る艦影をしていますが、アーレイバーク級と比べてS〜Kuバンドの電波を照射した場合RCSは1/50でしかないと言われています。