北朝鮮、”ムスダン”ミサイルを発射予定か?

 ここ最近不穏な半島情勢が続いていますが、先日北朝鮮の元山(ウォンサン)へ列車で複数の弾道ミサイルが運搬されていたことが判明しました。運搬されたミサイルはノドンより新しい中距離弾道ミサイルとして知られる”ムスダン”ミサイルと見られています。
 
 北朝鮮は爆縮レンズを利用したブースト型核爆弾(強化原爆)の開発成功をちらつかせており、仮に開発が成功していれば核弾頭の中距離運搬手段となるであろうムスダンIRBMの試射はアメリカ陣営・中国両者に影響を与えることになるでしょう。ノドンより高性能で移動式発射台で移動できるムスダンの捕捉は困難になり、グアムを射程に収めるムスダンを日本などへの攻撃に使用すれば迎撃は難しくなります。日本の場合、イージス艦のSM-3 ブロック1Aでの迎撃に失敗すると残るは終末段階の地表近くで迎撃するパトリオットPAC3が唯一の迎撃手段となります。ブースト型核爆弾とムスダン、この2つのカードで北朝鮮は”我が国は実用的な中距離核戦力を保有している”とアピールすることができます。
 
 一方、迎え撃つアメリカ側も黙ってはおらず、MDに対応したアーレイ・バークミサイル駆逐艦のDDG-56 ジョン・S・マケインとDDG-73 ディケーターを朝鮮半島近海へ派遣しミサイルの追跡と迎撃の圧力を加えており、さらにグアムへTHAADを配備することも発表しました。グアムへのMD関連装備は初めてのことですがこれは米軍が、”北朝鮮のミサイルはグアムを攻撃できる可能性がある”と認めたといえます。THAADはパトリオットPAC3よりもより上層部で弾道ミサイルの再突入体を迎撃するためパトリオットよりも運動エネルギーをより持つ弾道ミサイルを迎撃できます。
 これに加え、弾道ミサイルを観測・追跡する電子偵察機RC-135S コブラボール2機を嘉手納基地へ派遣されることになり、米軍は北朝鮮の攻撃能力誇示に対して自らの対弾道ミサイル能力を示すことによって応じています。
 
 ミサイルが発射された時に、ミサイルの情報を収集することで性能などを分析することができます。”ムスダン”ミサイルは旧ソ連のヤンキー級戦略原潜(プロジェクト667A)に搭載されたR-27 SLBMの技術を流用していると見られています。R-27は液体燃料を使用しますが、一度燃料を装填すると長時間排出できないSLBMの都合上、液体燃料にも関わらず燃料を装填したまま比較的長期の保存に耐えるようになっています。ムスダンも同様の特徴を受け継いでいる可能性があり、ムスダンは10分で発射が可能な即応性能を持っているとされます。移動式発射台は事前の発射場所の特定を困難とします。米軍は湾岸戦争でF-15Eによるスカッド狩りで大きな戦果を上げたもののそれでもスカッドを発射前に完全に破壊し切るには到底至りませんでした。地形もより複雑な北朝鮮ではムスダン狩りはより困難なものになるでしょう。
 
 また、ムスダンは北朝鮮では一度も試射されておらず(イランに部品が輸出されていたとも言われる)北朝鮮としてはミサイルの実戦能力を認定すると同時に”核ミサイル”の刃を日米韓につきつけ何らかの譲歩を引き出す狙いもあるでしょう。金正恩第一書記は軍部の掌握が遅れているとも言われますから戦略ロケット部隊の成功で通常部隊を抑えようとしているのかも知れません。
 今回、北朝鮮ではあの有名な「ソウルを火の海にする」発言が行われた燃料棒抜き取りの頃に行った大学を閉鎖し予備軍を招集するという措置は採られていないので本気で戦争を行う意志はないという見方もされています。開城工業団地閉鎖も韓国への圧力にすぎないという見方です。一方、平壌ロシア大使館員の退避について北朝鮮外務省がロシア側に検討を要請しており、何が起こるのか予測するのは困難です。