中国に1隻目のポモルニク型エアクッション揚陸艇が到着(ポモルニクの運用を考える)

 サーチナ及び中国網日本語版によると、5月28日にウクライナから購入したポモルニク型エアクッション揚陸艇(958型)が広州の港に到着したようです。ポモルニクは中国に出荷される前に1ヶ月の洋上航行試験を経たとのこと。

 このポモルニクの購入については2010年に契約が締結されており、そのことについては自分も当時記事にしていました。この時。ウクライナはポモルニク2隻を中国向けに建造することとポモルニク2隻に関する技術的文章を中国に引き渡すことを契約しています。冒頭に挙げたサーチナの記事によると、4月12日にウクライナ南部の都市フェオドシヤで建造を行なっていたウクライナ国営企業Ukrspetsexport社長のドミトリー・ペレグドフと中国側代表者との間で1隻目のポモルニク引渡しに関する調印式が行われたということです。察するに、この4月12日前後あたりから”一ヶ月間の洋上航行試験”が行われ海路で中国へ運ばれ到着したのが5月28日ということでしょう。ウクライナでは既に2隻目の建造を開始しているということです。また、契約によって中国が入手した技術的文章を利用して中国はさらに2隻のポモルニク型を国内で建造する予定だということです。

 さて、2010年に最初の記事を書いた当時、自分はポモルニクは中国の台湾侵攻に主に使用されるがその性能は周辺諸国にも影響を与えうるものだという分析を行いましたが、中国についての知識が不足していたためでしょうが、領土問題を抱える離島群への進出に使用されるのではないかという分析は行なっていませんでした。尖閣諸島スカボロー礁など(つまるところ南シナ海の牛の舌)の現状を見ればポモルニクの投入先についても新たな想像が可能です。今一度、ぽモル肉の運用を想定して見ることにします。

 まずは台湾です。なんといってもこれを外すことはやはり出来ません。中国海軍は崑崙山級(071型)揚陸艦や将来の強襲揚陸艦などに搭載可能な726型エアクッション揚陸艇を既に保有しています。これは従来中国が運用していたタイプとは異なりLCACと同じように戦車などの装甲車両を運搬可能です。また、中国軍は各種水陸両用車を保有しており、05式水陸両用歩兵戦闘車や05式水陸両用戦車などは特に有名ですが他にも水陸両用自走榴弾砲なども海軍陸戦隊に配備しており、揚陸艦と水陸両用車だけでも十分に揚陸戦を行えるだけの戦力を確保しています。しかし、両用戦に供される艦船はたいてい低速で進出に時間がかかり、発進させるエアクッション揚陸艇も防弾設備は十分ではありません。また沖合から発進する水陸両用車は最新のものを除いて水上航行中は無力であり航行速度もホバークラフトと比較すると低速で水際で撃破されてしまう可能性は低くありません。ポモルニクであれば、巡航速度の55ノットで540kmの航続距離であり、中国海軍東海艦隊の本拠地”寧波”中心部から台湾の”台北”までは直線距離で約540kmで、海上を進むため距離は異なるにしても航続距離の範囲内です。

目的地沖合まで揚陸艦に運搬されるタイプのエアクッション揚陸艇とは異なり目的地まで自走するポモルニクにはある程度の防弾装甲に自衛用のCIWSや機関銃、揚陸部隊に火力を提供できるロケット砲など敵の反撃に耐えつつ部隊を揚陸させるための設備が整っています。例えば揚陸艦からなる本隊に先発して突入したり即時展開可能な火力として本隊を援護しながら揚陸を行うなど選択肢を増やすことができます。台湾の防空網を空挺部隊がすり抜けられる確率は未知数ですが、空挺に準ずる速度とより大きな火力をポモルニクは提供出来ます。立体的な揚陸戦を展開出来れば台湾側を苦戦させられるので強襲揚陸艦が充実した場合でも完全に無駄になることも無いでしょう。一方でポモルニクはあくまでもホバークラフトなのでホバー部分は脆弱という弱点はあります。

 次は尖閣諸島です。尖閣諸島へ進行する場合、任務的には沖縄・佐世保を監視する任務も帯びている北海艦隊が主力になってもおかしくはないのですが、地理的には東海艦隊本拠地の寧波の方が近いです。まずは北海艦隊本拠地の青島から尖閣諸島までの距離を調べてみましょう。

尖閣諸島が縮尺の都合で消えてしまっていますが、青島から魚釣島までの距離は1186kmということになりました。さすがにこれは航続距離を超えてしまっています。

一方、寧波市中心部-魚釣島は直線距離489kmと約500kmです。55ノットで540kmの航続距離内ですので侵攻は可能です。尖閣諸島周辺には海保の巡視船部隊が展開していますが、仮に突入するとなった場合、巡航速度で55ノット最高速度63ノット(時速113km)を誇るポモルニクであれば中国公船の支援がなくても突破は可能でしょう。燃料にも片道であれば余裕はあるので巡視船相手に回避機動を行なっても大丈夫です。上陸後、巡視船から攻撃を受けた場合でもポモルニクであれば反撃するだけの火力があるので巡視船にとっても迂闊に接近して弱点を攻撃はできないでしょう。しかし、魚釣島の場合地形に若干難があり、海岸線は完全な砂浜ではなく岩場めいた状態です。しかし上陸が不可能という程でもないでしょう。上陸することの軍事的・政治的意味はともかく電撃的に上陸することは可能であり、接近されてからではあの速度のポモルニクを巡視船の火力で阻止することは難しいと想定されます。

 さて、緊迫する南シナ海では中国がターゲットにしている離島群が多すぎてなんとも言えませんが、その中でも中国本土から比較的距離の遠い南沙諸島(スプラトリー諸島)を例に考えてみます。

(↑南シナ海の”牛の舌”)
過去に南沙諸島をめぐり中国とベトナムは交戦し岩礁を複数占領したものの空軍の支援が届かない距離であったため海軍がすぐに撤退し残りの岩礁ベトナム支配下に残りました。南シナ海方面で主力となるのは湛江に本拠地を置く南海艦隊です。ちなみに今回ポモルニクが到着した広州にも南海艦隊の基地がありますが、広州は中国南方の海の玄関でもあります。

湛江-南沙諸島間は1323kmと航続距離の範囲外です。広州を起点にした場合は1400kmを超えてしまいこちらの遠すぎます。しかし、中国は西沙諸島を巡りベトナムと交戦した際、完全に西沙諸島を自らの勢力圏に組み込むことに成功しており、現在は永興島に2400mの滑走路と港が建設されています。ここで補給ないし事前に進出させておけばポモルニクでも南沙諸島は十分に到達可能・・・かとおもいきや・・・

意外と遠かったですね。速度を落とせば到達できるかもしれませんが、それではポモルニクの利点の一つが失われてしまいます。事前に前進させねばならずなおかつ速度を落とさねば到達できないというのは若干考えてしまうポイントです。ベトナム海軍やフィリピン海など南シナ海で中国と対立する各国の軍備が日本などと比較するといくら貧弱とは言ってもポモルニクも所詮はホバークラフトです。速度に乗じて突破して上陸したとしてもその後にフリゲート駆逐艦に囲まれてしまえば良くて相打ちです。南沙諸島でのポモルニクの運用に関しては、上陸してからいかにいかに短時間に中国軍が増援や援護を送れるかに掛かっていそうです。
一方、西沙諸島からスカボロー礁へポモルニクを送り込む場合、航続距離内になります。

しかし、まあ、スカボロー礁に上陸部隊を送り込んで何をするのかといわれると・・・中国は現在スカボロー礁に軍事施設を建設中とのことですが・・・ポモルニクの出番があるかどうかといわれると・・・。

 ポモルニクの運用を検討してみると、案外南シナ海での運用には難がつきそうです。一方台湾・尖閣諸島に関しては距離的には十分運用可能なようです。ポモルニクがどの艦隊に配備されるかはわかりませんが、どこに配備されるにせよ周辺国はポモルニクの脅威に晒される可能性があると想定せざるを得なくなります。特に対艦ミサイルなど遠距離に投射できる火力を持たない巡視船や哨戒艇などでは防衛網を突破されてしまう危険性もあるでしょう。実際ポモルニクが出動した場合、恐れくそれは先遣隊にすぎません。防衛側にとってはポモルニクを防ぐこともそうですが増援部隊への備えが大事になります。