韓国は3000t級の潜水艦建造を検討する

 中央日報の記事によると、韓国海軍は2020年までに3000t級の通常動力潜水艦の保有を行う意向であるとのこと。

 韓国海軍関係者は4日、「2020年から2030年まで順次3000トン級潜水艦9隻を確保するという計画が国防部を通過した。1月に設計に入った」と語ったとのこと。予算は3兆1000億ウォンであり、日本円ではおよそ2727億円。大宇造船海洋が設計と建造を行うとのこと。

 各サイトなどではVLSの装備は規定事項とされているようですが、中央日報の記事では潜水艦の隠密性から生まれる戦略性と潜水艦の大型化による戦略的な運用(巡航ミサイルの装備含む)が可能になることしか書かれていません。中央日報ではこの新型3000t級潜水艦を「動くミサイル基地」と表現し、潜水艦から発射する巡航ミサイルの有用性を湾岸戦争リビア攻撃時の米軍のトマホークによる打撃を出して説明していますが、たかだか水中排水量(と思われる)3000tの潜水艦に搭載できる量の巡航ミサイル中央日報が言うような焦土作戦を展開するのは不可能であり、巡航ミサイルを運用できる水上戦闘艦もKDX-2とKDX-3のみであり、KDX-3は北朝鮮のミサイル監視に就くことが多いことを考えると巡航ミサイルによる打撃任務に専念しうる水上戦闘艦はKDX-2のみになるでしょう。噂されるKDX-2の低い稼働率を考えると投射できる火力としては焦土戦とはいえないでしょう。加えて、アメリカ海軍のロサンゼルス級攻撃型原子力潜水艦でさえトマホークを運用するVLSは12セルです。ロス級は水中排水量7000t前後にもなる大型艦ですから、韓国が建造する3000t程度の潜水艦ではVLSをあまり搭載できません。そもそも、魚雷発射管と弾薬庫のスペースを考えればVLSの搭載そのものが怪しいところです。米軍の場合、現行のタクティカル・トマホークがコストカットによる外装の耐久性低下により魚雷発射管からの運用に耐えないという事情とVLSを魚雷発射管と別に用意することで魚雷・ミサイルの連続もしくは同時発射が可能になる他魚雷の搭載数を減らさずにミサイルも運用できるという利点があります。しかし、韓国は巡航ミサイルも一応国産しているためトマホークに拘る必要はありません。国産巡航ミサイル玄武-3シリーズには潜水艦発射型も既に存在し、実際に214型潜水艦からも発射されています。214型潜水艦には魚雷発射管しか無いためVLSから運用しなければならない事情は無いはずです。また、いくら大型化により従来艦よりも作戦行動可能な期間が増えたとはいえ原子力潜水艦と比べると機動力は乏しいため頻繁な帰投・補給が必要になると予想されます。そのような状況下において艦内スペースを犠牲にしてまでVLSを採用してミサイル搭載数を増やす必要性とそのミサイルを活かす機会が得られるかどうかも疑問です。しかしながら中央日報ではあくまでも3000t級潜水艦はVLSを搭載する事ができる大きさになるだろう、と書いているのみでこの記述自体もミサイル基地としての役割を果たす潜水艦への期待を込めた一種の願望のようなものでしょう。

 先日、リビアの弾薬庫を巡航ミサイルで攻撃したとされるイスラエル海軍のドルフィン級潜水艦は、水中排水量1900t程度の小型艦であり、韓国海軍では排水量1800t程度の209型潜水艦(張保皐級)に匹敵するサイズです。ドルフィン級は魚雷とハープーンを運用する533mm発射管6門の他に巡航ミサイルを運用するとされる650mm発射管4門を備えています。魚雷・ハープーンは16発、巡航ミサイルは4発を最大搭載可能です。韓国の209型潜水艦は魚雷のみ最大14発を搭載可能となっています。後継の水中排水量1800t程度の214型潜水艦(孫元一級)でも魚雷搭載量は16発と大して改善されてはおらず、さらに本級では209型とは異なり魚雷に加えハープーンミサイルや”天竜巡航ミサイルも搭載するため各兵装の搭載量は圧迫されてしまいます。有事の際の北朝鮮潜水艦・潜水艇への対処と巡航ミサイルによる対地攻撃を同時に行うには弾薬の量が不足気味であることは明らかです。ここで韓国海軍が断薬量不足解消のため次期潜水艦建造時に取れるオプションは
1.ドルフィン級の様に巡航ミサイル専用発射管(非VLS)を用意し、発射管にミサイルを常に装填しておく。ミサイル搭載量は発射管の数に制限されるが弾薬庫は圧迫しない。
2.潜水艦を大型化し弾薬庫の容積を増やしミサイル・魚雷共に必要十分な積載量を確保する。
3.潜水艦を十分に大型化することでVLSを装備し、ミサイルはすべてそこから運用する。
というものでしょう。1.はソナーアレイとの兼ね合いにもなりますが艦首に十分なスペースがあればそこに発射管を設置して、VLS的な運用を行えば最小限のスペース消費で魚雷搭載数を確保したままミサイルも運用出来ます。ただし、ミサイルの本数は制限されるため対地攻撃で中央日報の言うような「焦土作戦」を行いたいなら全く不向きです。一方で高価値目標を海中から狙いすます運用なら不便はないでしょう。イスラエル海軍はまさにこの運用をこなっています。2.は海上自衛隊の潜水艦と同じアプローチです。潜水艦が大型化すれば行動期間も増えるので広い海域をパトロールする必要のある海自SSにはうってつけです。海自潜水艦は魚雷と対艦ミサイルのみ装備するのでミサイルの大量運用を可能にするVLSを装備する必要性は今のところほぼありません。韓国海軍も恐らくこの方法をとることになるとは思いますが。3.は前述のとおり米原子力潜水艦で使われる方法であり、またソ連時代に建造された巡航ミサイル潜水艦も魚雷発射管とは別にミサイル発射管を持っています。最新の攻撃型原潜ヤーセン級(プロジェクト885級)もP-800用ミサイル発射管を魚雷発射管とは別に装備しています。米軍の場合はミサイル側の都合や搭載量を重視した結果であり、ソ連・ロシア軍の場合はミサイルの太さが魚雷発射管よりも巨大になったなどの事情によるものです。3000t程度の排水量VLSを配置する容積は無いでしょうし、無理やりVLSをつけた所で少ししかミサイルを積めないなら全くの無駄です。”天竜巡航ミサイルを既に214型の魚雷発射管から運用しているのであればわざわざVLSを作らなくても弾薬庫だけ大きくすればいい話で、VLS装備の合理性に欠けます。しかも、3000t級の水中排水量を持つコリンズ級潜水艦は魚雷・ミサイル(巡航ミサイルとハープーン)合わせて22発の搭載量であり、ロス級もVLSを除いた弾薬庫の収容数は22発です。正確な数値は不明ですが水中排水量が4000t前後のおやしお型・そうりゅう型潜水艦でも弾薬庫は22発+α程度でしか無いでしょう。そう考えると3000t級の潜水艦が持つであろう”22発を収容する弾薬庫”は214型の16発という搭載量からすれば十分拡張されており、214型の武装+6発の巡航ミサイルを搭載できるというのは排水量を考えれば十分ではないでしょうか。普通の潜水艦の魚雷搭載量なんて所詮「そんなもの」です。VLSは搭載量不足の特効薬にはなりません。そもそも艦内容積が足りませんから。3000tの水中排水量VLSを備えロサンゼルス級並の火力を期待するという事自体がそもそも間違いなのです。しかし一方でオーストラリアはコリンズ級の兵装搭載量に満足していないことは付け加えなければなりません。ミサイルに魚雷と多種多様な兵装を運用する同級で弾薬庫がいっぱいいっぱいな状況を考えれば韓国がVLS装備を考えるのは一理あるとも言えます。ただ、オーストラリアは広い海域を警備する必要があり韓国にその必要性は乏しいことも事実です。いずれにせよ3000tの通常動力潜水艦にVLSを積む必要性は考え難く、弾薬庫の容積を必要に応じて拡張しつつ妥協して運用するのが一番無難なのです。

(↑後半に”天竜巡航ミサイルが214型から発射されるシーンがある)
 また、韓国が兵器を国産、となるとこれまた妥当性が疑われるところですが、3000t級の通常動力潜水艦を製造している国自体が限られてきます。せいぜい日本・オーストラリア(コリンズ級)・ロシア(キロ級・ラーダ級)程度でしょう。キロ級・ラーダ級の導入は兵器体系において変革が必要となりコストがかかりすぎてしまうため現実的には不可能でしょう。潜水艦において様々な国の多様なシステムを一つに統合することには中国が大変苦労したので避けるのが賢明です。コリンズ級は運用実績についてはあまりいい噂は聞きませんし、日本はそもそも武器輸出に消極的な上政治的にも難しいものがあるでしょう。おまけにVLSを搭載しよう、なんて考えているなら国産以外の道はありません。技術的には厳しいのはもちろんであり、現在の韓国のレベルで建造可能かはかなり怪しいところです。イスラエルのドルフィン級は212A型を大型化したものですが政治取引でその条件をドイツから引き出すことが出来たからこそ建造が出来たのであり、韓国がドイツに特注するにしても同じ待遇は望めないでしょう。そしてドイツは水中排水量2000t程度の潜水艦しか製造していません。3000tより大きい通常動力潜水艦を望む国で、ロシア製潜水艦の導入を不適とするならば、残る選択肢は日本しか見当たらないことはオーストリアが日本のそうりゅう型を欲しているという記事で書きました。韓国には自力で頑張ってもらうしかありません。そういえば三菱重工から潜水艦に関する情報が漏洩したとかいう事件もあったような気がするけどあれはもしや・・・そもそも韓国と北朝鮮は隣接してるわけですから巡航ミサイルによる火力投射に様々な手段が使えるわけで潜水艦の大型化やVLSにさほど執着する必要も無いと思うのです。移動式発射台で運用できる玄武-2やATACMSもありますし水上戦闘艦や航空機からも巡航ミサイルは発射できるでしょう。焦土作戦などというわけのわからない夢はやめて高価値目標に狙いを限定すれば韓国軍でも巡航ミサイルは運用しきれるはずです。警備すべき海域も韓国のそれはさほど広いわけではないですし対日戦を想定しているとしても無駄が多すぎるような気がします。北朝鮮の潜水艦への対策ならば対潜哨戒機をもっと増備するべきであり、空中からの支援が事実上無い状態で潜水艦だけで対潜水艦任務を完結させるのは荷が重すぎるでしょう。その上対地攻撃任務まで背負わせるのはやり過ぎではないでしょうか?どうも盧武鉉時代のKSS-3計画の中身をそのままのようです。2018年頃から導入を始めるとした点や”重攻撃潜水艦”という位置づけだったKSS-3と完全に一致してます。盧武鉉の打ち上げたKFX計画も頓挫気味ですし、一度頭をリセットする必要があるのでは。なお、新潜水艦は209型を更新する模様。