北方艦隊は北極海のロシア国境の安全保障において十分ではない

 RIAノーボスチによると、1月23日、Academy of Geopolitical Problemsの副所長Konstantin Sivkovは北方艦隊は北極海におけるロシア国境の安全保障任務を完全には遂行できないと語りました。
 以前、ロシア国防相のセルゲイ・ショイグは「北極海インフラストラクチャーの整備が今年の国防省の優先課題の一つとなるだろう」と語っています。2014年には計画に従って北極海におけるロシア軍の態勢は整えられているべきだと考えられています。「今日の北方艦隊は、この広大なエリアの国家安全保障の単純な問題でさえ十分に解決できる能力が有るとはいえません。我々の国境の警備は海軍の十分な戦闘部隊の整備によってのみ達成することができるということは記憶にとどめておかなければなりません。」とSivkovはノーボスチに語っています。また、モスクワ国際関係大学の国際関係学部教授であるAndrei Zagorskiは北極海地域において武装した軍隊同士が衝突する可能性について「最小限である」と述べています。

(↑原子力砕氷船”ヤマル”)
 北極海はかつての冷戦時代は戦略原潜が報復攻撃に備えて待機している場所であり自国の戦略原潜のための”聖域”の確保と北極海のどこかに潜む敵戦略原潜の動向を探らなければならない(交戦して駆逐することはもちろん平時に不要に接近して緊張を高めることを避けるためにもある程度所在を知る必要はある)という事情において重要な海域でしたが、地球温暖化により北極海の流氷が減少しつつある今は資源開発・航路開拓が活発になりつつ有るため今後北極海において自国の勢力圏を確保しなければならないという理由で重要性は高まっています。航路開拓については、ロシア国営企業”ロスアトムフロート”が「北極海航路を使い、アジアと欧州間を結んだ貨物船が昨年は71隻に上り、前年の1・5倍に急増した」と発表しています。政府も貨物船の先導に使用する原子力砕氷船を4000億円かけて3隻新造することを決定しており、既存の艦艇も含めて合計8隻に達するとのことです。遭難した航空機や船舶を救助するための基地も設置するなど本格的に航路を使用すべく活動しています。また軍も北極海に豊富にある資源を防衛するための計画を立案していることは以前も記事にしています。そこでは、ロシア軍が北方艦隊向けに求めている艦艇は「氷海である北極海で長期間活動する能力を持ち動力は原子力であること」、そしてそれとは別に「バレンツ海やカラ海そして北極海のいわゆる沿岸域で活動できる軍艦」でした。これらの艦艇は”ロシアの海洋経済活動の安全”を守るために必要であり、投入が想定される任務として「シュトックマンの海底ガス田とその生産プラントの保護」が挙げられていました。同ガス田は世界第八位の埋蔵量を誇るとされており、戦略的に重要な地点だと言えるでしょう。また、シュトックマンガス田以外にもペチョラ海・カラ海・バレンツ海は多くの石油及びガスの埋蔵が確認されているため氷海でも長期間行動できる艦艇の整備は必須でしょう。

(↑北極海周辺部には多くの資源が埋蔵されている)
原子力を動力にすると考えているところも興味深い点です。また、これと平行して2020年までに北極海向け支援艦艇も建造開始するとしています
 ロシア北極海沿岸の”アジア側”ではノボシビルスク諸島に軍事基地が再建されています。基地の再建には北方艦隊から部隊が派遣されているようです。今後はノボシビルスク諸島の基地の様な監視拠点の増設や部隊駐留に必要なインフラ整備、北極海における北方艦隊の活動を支える装備の整備が行われかつてとは異なる任務を”十分に果たせる状態”になっていくと予想されます。Andrei Zagorskiの言及している北極海における軍隊同士が衝突する可能性については、再び軍が北極海を重視する理由がかつての冷戦時代とは異なり権益確保などを中心とした警備任務目的であるからでしょうか?