ロシアはジブチとベトナムとの間で入港手続き簡略化の合意を結ぶ

イタルタス通信によると、ロシア国防省ベトナムジブチの軍事当局とそれぞれの港におけるロシア海軍艦艇の入港手続き簡略化に合意することを計画しているとのこと。

「手続き簡略化の準備は高い水準で整っています。より正確に言えば、この合意は今年中に成立するでしょう。この合意は海洋でロシア海軍艦艇が作戦行動に従事した後にジブチカムラン湾の港に彼らが入港するのに好ましい状況をもたらします。」情報筋はこう述べました。インタビューアーは合意に調印して以降はジブチベトナムの港をロシア海軍艦艇が自由に行き交うことになるだろうと記していますが、一方それらの港湾においてでロシア海軍艦艇に対して行われるありとあらゆる支援についてロシアは代価を支払わなければならないだろうと述べています。「ありとあらゆるもの―艦艇が港に滞在する時間、補給する燃料、水・食料の供給、電力の供給、もし必要であれば乗員が艦を離れている間の艦艇の維持と修理作業―に対して代価を支払わなければならないでしょう。」彼は述べました。また付け加えて情報筋はロシアはジブチで空港のリースを受けることを意図していると述べています。「その飛行場は首都の近くにあり、近代化の可能性を帯びて数年間ロシアに貸し出されるでしょう。」「滑走路の長さはIL-76やIL-78の様な大型輸送機の運用が可能なほどではありません。したがって明らかにロシア側はジブチとの合意において自己負担での滑走路延長工事を行うことを盛り込むでしょう。」
 ロシア国防大臣のセルゲイ・ショイグは3月26日の軍事オブザーバーとの会議でロシアは全世界における自らの軍事プレゼンスを広めていくという発言をしました。特に、海外拠点となる軍事基地を増加させるのか否かという質問に対してショイグ国防相はそのような交渉がベトナムキューバに対して行われると回答しました。国防相は付け加えて「セーシェル共和国シンガポールアルジェリアキプロスベネズエラニカラグアとさらに数か国との間で活発な交渉を行っています。」と説明しました。ショイグ国防相によると、「ロシア海軍の艦艇が異なる地域、異なる領土に駐留する機会を確保することは手続き簡略化の可能性であり、必要なことである」ということです。また国防大臣は続けて「赤道一帯やその他の地域で航空機に長距離の飛行を行う航空機に給油を行う必要があります。あなた方も知っている通り、我々は活動的に飛行し、より活動的で有るために飛行します。我々には給油のための基地が必要なのです。」と語りロシアが利用できる飛行場を世界規模で整備することの意義を語りました。国防大臣の見通しによると、それらの航空基地はIL-78空中給油機を運用することになるだろうということでありIL-78は長距離を飛行する航空機に空中で燃料を提供できます。「我々にはそういった基地が必要です。我々はリストアップした国々と合意を確立するという結果に極めて近づいています。」国防大臣はそう結びました。しかし、彼はこういった協定をジブチと結ぶべく交渉下にあるかどうかは明らかにしませんでした。アフリカ東側に位置するジブチはアデン湾に隣接し、そのアデン湾ではロシア海軍が日常的に対海賊任務に就いています。

(↑タルトゥースに停泊するロプーチャ級大型揚陸艦

 ロシアがベトナムジブチの港を自国艦艇の補給や休息に利用できるよう協定を結ぶことを意図しているというのが本旨の記事でしたが、その背景にはロシアの軍事プレゼンスを全世界規模的に高めるという目的が存在することが語られています。ロシア軍の海外拠点として有名であるのはシリアのタルトゥースでしょう。シリア海軍の拠点でも有る同地には3つの倉庫と1つの管理所を擁するタルトゥース海軍補給物資供給所があり、また黒海艦隊から工作船の派遣も行われているため燃料や物資の補給及び簡易な修理を行うことが出来ます。北方艦隊の艦艇が遠征する際に立ち寄るなどロシア海軍の遠征を支える存在ですが扱いとしては”海軍補給物資供給所”であり”基地”よりも格下の区分に分類されています。こうした補給地を増やすことで遠征の際により柔軟なプランをつくり上げることが可能になる他、遠方に補給地を設定できれば世界規模で部隊展開する場合に役立ちます。特に現在のロシア海軍は空母アドミラル・クズネツォフやソブレメンヌイ級駆逐艦の様な蒸気タービンを採用し重油を使用する艦艇とウダロイ級やより新しい艦の様にガスタービンを採用し軽油を使用する艦が入り混じっているでの(普段の運用はもちろんのこと)遠征時の燃料補給はそれなりに頭の痛い問題でしょう。需要の高い任務の性質もありソブレメンヌイ級は遠征においての稼働率を落としていますがアドミラル・クズネツォフはそれなりの頻度で遠征を行っているためタルトゥース以外のこうした補給地の存在は多少なりとも遠征部隊編成の負担を減らすことになるのでは無いでしょうか。ソブレメンヌイ級はいずれアドミラル・ゴルシコフ級フリゲート(プロジェクト22350)で置き換えられるでしょうから空母随伴部隊から蒸気タービン艦が消滅する日がそれなりに近い将来やってくるのは間違いありませんがアドミラル・クズネツォフ自体は現在ロシア海軍が検討している次世代空母が具現化するか寿命を迎えるまで存在し続けるでしょう。
  記事ではセーシェル共和国シンガポールアルジェリアキプロスベネズエラニカラグアといった国々が合意を結ぶ相手国としてショイグ国防相の口から語られていますが、セーシェル共和国アラビア海(インド洋)、アルジェリアは地中海沿岸のアフリカ、キプロスは地中海と地中海・アフリカ近辺に非常に軸足を置いた選択となっています。記事の最後にも述べられているとおり、ロシア海軍は現在恒常的にアデン湾に海賊対処部隊を派遣しており、その際にタルトゥースの海軍補給物資供給所は中継拠点として利用されています。以前、チルコフ中将はタルトゥースの拠点について「特にアデン湾での海賊対策に関する任務を遂行する場合などにおいて、ロシア艦隊にとって不可欠」と述べておりパナマ運河経由でアデン湾へ向かう場合の地中海の補給所の重要さを垣間見ることが出来ます。そういった重要拠点について予備を用意することは自然なことでしょう。また、ジブチを含めてアデン湾近くにも拠点を確保しておくことも理解できる行動です。また、太平洋方面にベトナムシンガポールを、そして中南米ベネズエラニカラグアを拠点として利用したい意向からは海賊対処とは別に広範囲に部隊を展開させる意図を感じ取ることが出来ます。余談ですが、ショイグ国防相の挙げた国々はロシア海軍が訪問した経歴の有る国ばかりです。友好的な関係にある国々でしょうから当たり前といえばそうでしょうが。ベトナムに関しては以前から基地使用を目論んでいました
 一つのトピックとなっているのがジブチの飛行場のリースを受けるという事です。海上自衛隊も初の海外拠点としてジブチ国際空港の一角を借りてP-3C哨戒機による海賊対処を行っていますが、ロシアの思惑は空中給油機による航空機への燃料提供にあるようです。もちろん、以前フランスに配備を依頼したように固定翼哨戒機や偵察機を持ち込んで海賊対処を行うかも知れませんが。緊急を要しない場合であれば航空機を飛行場に着陸させることで燃料の補給が可能ですが、当然時間が余計にかかります。一方で空中給油であればパイロットの体力の続く限りそのまま飛行を継続できるので部隊の急速展開が求められる場合では空中給油機が必要となるでしょう。実地戦略演習ヴォストーク2010では欧州から極東までSu-24とSu-34が空中給油のみ(着陸なし)で展開しています。そういった作戦行動を必要なときに取れるようにしておくための布石ではないでしょうか。また、IL-78が運用できるサイズに拡張するのであれば中・大型輸送機の運用も可能になるでしょうから、リースを受けた後は積極的な運用がなされることでしょう。