ロシア軍は北極海に軍管区を設立する

 2014年12月までに北極海に北方艦隊を中核とした新しい軍管区を設立すると海軍中央ポータルflot.comが報じています。

 新設される軍管区の主要な任務は北極圏におけるロシア連邦の権益を保護することです。2014年12月までに北方艦隊は西部軍管区を離れ新軍管区の主力打撃部隊となります。
この件については、2013年12月にロシア国防相セルゲイ・ショイグが新軍管区設立の準備は軍事施設の建設においては既に開始されており、ノヴォシビルスク諸島とフランツ・ヨーゼフ諸島において工事が行われていると述べています。

 地球温暖化に伴い北極海航路北極海の資源開発が現実的なものとなりつつ有るのに対し、ロシアは北極海を新たな作戦地域として捉え、北極海に投入可能なハードウェアである装備の開発を表明していますが、ハードウェアを運用するソフトウエア側である軍管区を北極(海)に新設することでより効果的な運用体制を整えようとしているようです。新設される軍管区は現在西部軍管区に所属する北方艦隊が中核となり構成されますが、ノヴォシビルスク諸島も新軍管区の管轄下に置かれるのであれば北極圏一帯をカバーするかなり巨大な軍管区となりそうです。北方艦隊では装備の近代化が進められており、2020年までに6隻の多目的原子力潜水艦、2隻の大型揚陸艦、1隻の駆逐艦、それぞれ5隻のフリゲートと掃海艦と21隻の支援艦及び1隻の戦略原潜北方艦隊は受領するとされており、また北方艦隊司令官のウラジミール・コロリョフ海軍中将は「2016年には装備のうち50%が、2020年には85%が新型でなければならない」との見方を示しており装備更新の必要性を訴えています。こうした新装備の調達は現在の機材を更新するという意味合いはもちろんありますが、装備の入換を通じて北極圏での作戦能力を徐々に向上させていく狙いも有るでしょう。国家権益の保護という観点から考えれば、普段の巡回を行う警備艦艇はもちろん重要ですが、必要な際に部隊を投入し制圧を行う行動も求められるでしょう。軽装備であっても部隊をいち早く投入することと、北極圏の気候により航空機の飛行が困難な状況も想定されることを鑑みればロプーチャ級やイワン・グレン級程度の揚陸艦(あるいはより小さい)の増備は必要とされるのではないでしょうか。また、ロシアの構想する新型空母を中核とした機動部隊の護衛艦として考えられている「新型駆逐艦」と同一であるかどうかは定かで無いものの、北方海域向けに大洋ゾーン艦に匹敵する規模の原子力艦及び沿岸作戦向けの艦艇の整備も表明しています。

 北極圏に眠る資源については以前にも記したことがありますが、主要な資源はガスや石油であり、なかでもスカンジナビア半島近くのシュトックマンの海底ガス田は世界第八位の埋蔵量を誇るとされています。他にもペチョラ海・カラ海・バレンツ海にガス田や油田が確認されており、こういった資源の採掘を行うためにも国境警備態勢を整え安全をアピールして企業を誘致していく狙いがあると思われます。また、このシュトックマン海底ガス田は主要なカスタマーに欧州を見込んでいますが、ウクライナを迂回しロシアに天然ガス供給を依存しないために欧州が整備を進めているトルコ・バルカン半島を経由の”ナブッコ・パイプライン”への対抗策としても価格次第では機能するのではないでしょうか。