フランスはロシア向けミストラル級へSENIT-9システムを供給する

 RIAノーボスチの報道によると、フランスはロシア向けミストラル級へSENIT-9を予定通り供給する意向だということです。

(↑ミストラル級)
 統合造船業営団の情報源はRIAノーボスチに対して、ウクライナに対するロシアの行動を受けてフランスはロシア向けミストラル級である”ウラジオストク”及び”セヴァストーポリ”にはフランス製の戦術情報処理システム”SENIT-9”を供給しないと伝えていたものの、実際にはそうではないようです。
以前はこの”革新的なシステム”が2隻に対して供給されないばかりかロシアのウクライナへの態度を鑑みて艦の建造を凍結する意図の表明を行ったと報道されました。しかし、実際には「フランスはすべての協定を完全に遵守しています。ロシア向けミストラル級へのSENIT-9の供給が拒否されたということはありません。」とスポークスマンが語った通りのようです。また彼は”ウラジオストク”と”セヴァストーポリ”が予定通り建造が継続されることも確認しています。2隻は2014年〜2015年にロシアへ到着することになるでしょう。
 公開された情報によると、戦術情報処理システム”SENIT-9”は戦闘艦艇の管制や周囲の環境について情報を収集する等のため設計された一連の技術的手段であり、”SENIT-9”はNATO軍の艦船、航空機、地上部隊との協調行動を重視し、その目的を達成するのに適切なソフトウェアを備えています。一方で”ロソボロンポスタフカ”(Рособоронпоставка)は自身のポータルサイトにおいて2400万ルーブル以上の価格で複合戦闘情報管理システム(CICS)”SIGMA-E”を供給するための公共入札に関する情報が含まれているとRIAノーボスチに語りました。その情報は国防省が”SIGMA-E”を2番艦の”セヴァストーポリ”に装備することを予定していると強調しています。
 2隻のミストラル級を12億ユーロでロシア向けに建造するという契約をロシア兵器輸出公社とフランスのDCNS社は2011年に調印しています。統合造船業営団はフランス側で建造を受け持つサンナゼール造船所の下請け企業としてこの契約に関与しています。

(↑ミストラル級内部)

 一時は供給が危ぶまれた”SENIT-9”ですが、予定通りロシアに供給されるようです。当初から"SENIT-9"がセットでロシアへ供給されるかどうかが話題になっていた感もあるので関心の的になるのも当然でしょうか。ウクライナの一件以来、ロシアはミストラル級が引き渡されなければ違約金を請求すると圧力をかけ一方フランスはそれに対し契約を履行すると返答しているので、あれ以来ウクライナに関してロシアが大きな行動を起こしていない現状ではそれを逸脱する可能性は少ないでしょうがモノがモノだけに情報が錯綜気味のようです。”SENIT-9”はフランスが開発するNATO互換の戦術情報処理である”SENIT”シリーズの最新版で、フォルバン級駆逐艦や空母シャルル・ド・ゴールに搭載された第三世代の”SENIT-8”を改良し指揮管制能力を強化したものと言われています。アビオニクスの役割が大きい現代では、情報処理の能力や効率如何によっておなじミストラル級というハードウェアでも作戦の遂行能力が大きく変化してしまうので、実際に検討されたのかただの風説なのかはわかりませんが”SENIT-9”を供給するかどうかが一種の圧力たりうると考えられたのでしょう。この手の情報処理の効率化や装備管制の自動化・システム化は西側が得意とするところであり、この分野においてソ連・ロシアは「遅れている」と見なされるのが通常です。しかし近年においては西側的な武器プラットフォームの集約や情報処理の統合化を推し進めており、ソ連崩壊以後建造されてきた中小規模の艦艇やアドミラル・ゴルシコフ級フリゲート(プロジェクト22350)はかなり「西側的な」装備となっています。
 "SIGMA-E"(СИГМА-Э)はロシア国産の戦術情報システムであり、このシステムが先に挙げた「西側的」な新型艦艇に搭載されていることからも情報処理やシステムの統合化をロシアも推し進めていることがわかります。"SIGMA-E"はФНПЦ ОАО "НПО "Марс"(マルス)の提供するシステムであり、ホームページでは"SIGMA-E"について「戦闘艦艇の管理と戦闘行動の為に設計され、電気システムを組み合わせ自動処理複合体とすることで戦闘における武器使用に関する決定を行います」と解説されています。単に各種センサーから情報を得て諸元算出するようなシステムではなく、アメリカでいうところのイージス武器システムやSSDSの様にサブシステムから情報を収集し統合して武器使用の意思決定を補助するといった能力を持ち合わせているのでしょう。防空・対潜・対艦・対地攻撃の管制やヘリコプター管制などが可能のようで、通信を通して他部隊と協調する能力も備わっているようです。サブセットとして「電子戦への耐性を高めたブロードバンド通信システムを備えており、現代的な機能は一通り兼ね備えているように思われます。また、特徴としては「Intel互換コンピュータ機器」(Pentium3を使用しているという話もあるけれど未確認)であるということなのでCOTS化が行われていることは間違いないでしょう。また一般的なLANでワークステーション同士が接続された「分散コンピューティングシステム」を採用しており、繰り返しになりますがこれもイージスシステム等西側の同等品が備える特徴です。
 この"SIGMA-E"、フランス製の"SENIT-9"と同等の能力を備えているかどうかは断言できませんが、カタログ的には第三世代SENITど同クラスの性能であると推定できるレベルになっていると思います。最悪の場合では"SIGMA-E"を1番艦”ウラジオストク”へ代替として投入することも出来たのかもしれませんが、安定性や信頼性ではシリーズとしての実績もミストラル級での動作実績もある"SENIT-9"をミストラル級で運用できるのはロシアにとって僥倖でしょう。運用の経験から新しい知見を得られるかもしれません。恐らく、大きな問題がなければ2番艦”セヴァストーポリ”では国防省の計画の通り"SIGMA-E"を導入するのではないでしょうか。

 ロシア国内で建造されている”セヴァストーポリ”艦尾部分は6月16日にフランスへ到着し結合される見通しのようです。海上試験を実施中の”ウラジオストク”で習熟訓練を行うため乗組員が6月1日にフランス入りするとのこと。一方でセルジューコフ前国防相の失脚により3番艦・4番艦の建造については見通しが不透明なままです。