回避行動中の潜水艦による魚雷発射についてロシアは研究している

 イズベスチヤが「ロシア海軍の魚雷は敵を回避中に発射可能となり、ロシアの潜水艦隊は戦闘で有利になるでしょう。」と銘打って記事を書いていました。

 ロシアの潜水艦技術は、敵の兵器を回避しながら安全に魚雷を発射する技術を取得しなければなりません。海軍の開発資料によると、関連性の有る研究がクリロフスカヤ国立科学研究所で開始されています。潜水艦としてそのような能力を備えた艦を保有している国はありません。
 魚雷を発射するためには、潜水艦は停止するか直進する必要がありますが、これらの行動は自身の脆弱性を高めてしまいます。計画の委任事項によれば、「様々な種別の兵器と自己防衛における機動中の魚雷発射の意味と潜水艦の確実な魚雷発射に関する一般的勧告の包括的研究」が行われます。そこには「価値のある典型的な武器に対して適用できなければならない」技術であると記されています。この技術は潜水艦の戦闘効率を高める―特に1対1の決闘のような環境において―と考えられています。イズベスチヤによって報道されたようにクリロフスカヤ国立研究所でのこの成果が既存の潜水艦隊をアップグレードするためだけに使用されるのではなく、新しい種類の兵器―魚雷と潜水艦―を創りだすのにも用いられます。魚雷を用いた戦闘に関する専門家は、既存の潜水艦からの魚雷発射の規定では魚雷は静止した状態か直進している時のみ発射されると説明しました。魚雷を発射するために潜水艦が停止するというのです。
 複雑な機動をすることは、魚雷の誘導システムと干渉する可能性があり、さらに艦体を回転させることで側面に強い水流が発生しそれにより魚雷の表面が破壊されてしまう恐れがあります。これは瞬間的に一度だけ起こるのではなく繰り返し発生し、細身な魚雷は水によって破壊されてしまうのです。「機動中に魚雷を発射することは全面的に禁止されている―これは学校や研究施設で最初に教わることです。」と専門家は述べています。
 ロシア海軍ではこの問題は解決されていませんが、米軍もまた然りです。研究計画の委任事項は「潜水艦が機動している際の魚雷発射を禁じる規定の存在に関連して、そういった禁止された発射の安全性はこれまで考察されていない。」と述べており、「技術導入によりこういった制限を撤廃する必要がある」とされています。クリロフスカヤ国立科学研究所の専門家は「ヘヴィー・トラフィック誘導システムは魚雷に間違った目標の方向を指示する可能性があります」と注意を促しました。「魚雷が定めた目標からある特定の距離に別の音源を発見したら、その後の行動を再思考させることができます。」
 回避行動中の魚雷発射について、ウラジーミル・ザハロフ退役少将は「敵を回避している最中の潜水艦はしばしば魚雷発射の為に停止できない状況に置かれる」と述べています。委任事項には「研究成果は魚雷・ロケット魚雷と自己防衛手段に使用されるだろう」と記されています。この研究は2016年に完了予定で、1億6500万ルーブルが割り当てられています。


 イズベスチヤの特集記事ですが、翻訳はかなり怪しい部分があるので割り引いて読んでください。話の大筋としては「ロシアは回避行動中の潜水艦から魚雷を発射可能にする」というものです。
 音響誘導魚雷の誘導方式はパッシブホーミングとアクティブホーミングそして有線誘導に大別されます。パッシブホーミングは魚雷に搭載されたパッシブソナーで音源を聴き取り予めセットされた音紋と符合する目標を追尾するものと解釈されています。アクティブホーミングは、魚雷のアクティブソナーで探針音波を発しそれにより目標が反射してきた音を追跡する方式とされています。有線誘導は母艦のソナーを利用して解析した目標の位置をワイヤーを通して魚雷に送り、魚雷はその指示どおりに走行する仕組みです。これら誘導方式の他にどのように魚雷を走行させて目標を探索するかなどをプログラムしてから潜水艦から発射されるのですが、いずれの方式も「音」を誘導に利用している以上音についてはシビアな面もあります。例えばパッシブホーミングではそもそも相手の発する何らかの音を捉える必要があるので、ある程度の速度で相手が移動していなければ探知できないとされています。また魚雷が高速走行していると当然相手の音を捉えられないので、目標捜索中は低速走行するとされています(余談ですが、最近の魚雷では敵に自身を探知されるのを防ぐため捜索が終わっても目標に接近し切るまでは低速走行するものもあると言われています)。また先に発射した魚雷とあまりに連続して発射されると前の魚雷の走行音を拾ってしまい上手く機能しないなどとも言われています。このように音についてシビアな魚雷を、雑音を発生させながら走行する潜水艦から発射するのには何らかの問題が存在するのではないでしょうか(潜水艦の発する音は後ろの方向へ作用すると思いますが)。また、有線誘導の場合は派手に動くと誘導ワイヤーが船体に絡みつくのでこちらは誘導中の機動が制限されることは容易に想像できます。
 記事中で他に発射の障害となる要素として挙げられているのが、潜水艦によって発生する水流の様です。魚雷は水中での抵抗を軽減すべく細身に作られているので、潜水艦の巨体から発生する水流で破壊される恐れがあると書かれています。
 ロシアはこれらの問題を克服すべく研究を行っているようですが、どうなるかは未知数です。派手な機動をしつつ魚雷を発射出来るのであれば、最近の短魚雷市場を賑わわせている「対魚雷魚雷(迎撃魚雷)」の運用も想定しているのでしょうか。文中に出てくる”自己防衛”は恐らくこれを指しているのだと思います。