ロシアは新たなミサイル追跡艦を開発する

 Flot.comの記事によると、ロシアは新しいミサイル追跡艦を建造する予定があるということです。(以下記事翻訳)

(↑ミサイル追跡艦 "マーシャル・クリロフ")
 ロシアは他国の戦略兵器やミサイル防衛システムの挙動を監視するための新たな装備を開発する。装備は北極海地域で活動させることのできる艦載型が望ましい。
 新しいミサイル追跡システムは、ミサイル防衛システムの評価・弾道ミサイルの発射と弾道ミサイル標的複合体などの監視ができるように設計されています。また、この複合体は大陸間弾道ミサイル(潜水艦から発射されるものも含めて)、宇宙打ち上げロケット、アメリカ合衆国が"迅速な世界的攻撃"をコンセプトに開発する様々な種類の弾頭を備えた巡航ミサイルと化す極超音速機を含めた諸国の先進的概念戦略兵器の捕捉も可能になっています。そして、このシステムはロシアのミサイルのテストにも利用することが可能です。
 ミサイル追跡システムの運送装備として艦船が無限の航続力と北極海での作戦能力を備えた形で調達され、その艦船の全長は140m、排水量14,000トンと見込まれています。艦船の乗組員は30名のロシア水兵と105名の"特別人員"で構成されます。最大行動期間は120日であり、少なくとも10,000海里を航行できるとのことです。居住区は艦種部の上部構造物に設置されます。推進装置は2軸のスクリュープロペラとバウ・スラスターになるべきだと考えられています。そして艦後部にはヘリコプター格納庫と飛行甲板が用意されます。
 プロジェクトの技術的・戦術的・経済的実現可能性と委任事項の草案は2014年11月末日までに纏められます。最初の契約は7300万ルーブルになると試算されているようです。
 この種の艦は、旧ソ連海軍が弾道のセグメントが異なるミサイルのパラメーターをコントロールするために設計した同じ種別の艦船を保有していたことを想起させます。ロシア海軍は現在この種の艦としては唯一アドミラルティ造船所で建造された"マーシャル・クリロフ"を保有しています。2012年に"マーシャル・クリロフ"は近代化と寿命延長整備を行い、衛星や巡航ミサイルそして弾道ミサイルと宇宙ロケットの飛行テストの支援任務を定期的にこなしています。
(翻訳ここまで)


 ロシアでは複合測量艦と呼ばれるミサイル追跡艦の新型をロシア海軍は建造する意向の様です。現役の"マーシャル・クリロフ"は1989年末日にプロジェクト1914の2番艦としてソ連海軍が受領しロシア海軍に継承されたものです。当時は同型艦でプロジェクト1914のネームシップである1番艦"マーシャル・ネジェリン"も活動していましたが、1998年に除籍されたため"マーシャル・クリロフ"が現在唯一のミサイル追跡艦として運用されています。かつては他にもソ連科学アカデミーが建造した艦が宇宙開発に関連した追跡を引き受けていましたが、彼も既に解体されています。
 ミサイル追跡艦は、諸国のミサイルの諸元を分析するという情報収集的な観点から必要とされることもありますが、自国の戦略兵器の運用におけるデータを記録するために必要とされることも多いです。そのため戦略原潜を運用するフランスもミサイル追跡艦を保有しています。他にはアメリカのT-AGM-23"オブザヴェーション・アイランド"が北朝鮮のミサイル発射を監視する任務に就くことが多いので比較的日本では馴染み深いと言えるでしょう。また、中国はミサイル追跡艦兼衛星追跡艦として"遠望型衛星追跡艦"を6隻保有しており、特に宇宙ロケットの追跡で威力を発揮しています。

 ミサイル追跡艦の目的は「水平線に隠れて地上局から見えなくなった飛翔体の追跡」と言えるでしょう。人工衛星の打ち上げでは、ロケットを追跡して得たデータによって軌道を決定する方法が主に使われています。このため、ある局面まではロケットを継続して観測する必要がありますが、1ヶ所の地上局で観測しているだけではいずれ水平線の向こう側へ飛んでいってしまうので観測不可能になります。そこで、複数の地上局を異なる地点に用意してそれぞれの局が観測を引き継いでいくことでロケットをロストすることなく必要なデータを取得しているのです。例えば日本のJAXAでは国内だけでも射場に近い種子島以外にも勝浦・沖縄に追跡管制施設が設置されています。そして国外のスウェーデン・オーストラリア・チリ・スペイン領カナリア諸島にも地上局が設置されており、日本から衛星が見えない位置にあっても追跡が可能な体制を構築しています。この追跡網はロケット打ち上げのみならず衛星に対する管制を行う際にも利用されており、まさに宇宙開発に必要不可欠なシステムだと言えます。弾道ミサイルの発射でもデータの採取には同じような仕組みが必要になりますが、商業ベースになりうるロケットと違ってこちらは諸元を他国に知られるのは都合がわるい上に、純軍事的行動なので他国の協力を取り付けられる保証もありません。そこで、何処にでも移動できるミサイル追跡艦が地上局の代わりとして利用されるというわけです。故に、通常の地上局で事足りるならば必ずしも弾道ミサイル開発にミサイル追跡艦を整備する必要はないと言えます。

(↑JAXAの追跡管制網)
 今回ロシアが想定しているミサイル追跡艦のスペックは例によって極海での作戦能力が要求されていますが、同時に"無限の航続力"という核動力を連想させるキーワードが提示されています。高度な観測機器を備えるミサイル追跡艦では、航続距離以外にも電力の供給面においても通常動力艦にはないメリットを享受できるのではないでしょうか。また、乗組員は30名+105名ということですが、"マーシャル・クリロフ"は乗員約350名なので大幅な省力化を目指していることが伺えますが、同時に船のサイズが縮小されています。
 近年、ロシアも戦略兵器の更新を行っているので新型ミサイル追跡艦の建造はそれに対する備えでしょうか。