ウクライナ情勢に関してロシア下院議員へのインタビュー

 イズベスチヤにロシア下院防衛委員会に属するFranz Klintsevich氏が受けたインタビューが掲載されていました。テーマは主にウクライナに関するもので、混迷を極めるウクライナ情勢に関して”政界の有識者”がどの様に事態を認識しているのかが垣間見えるものであったので翻訳しておきます。


 ロシア国家院防衛委員会副議長のFranz Klintsevich氏は、ロシアがウクライナ・西側諸国・NATOからのあらゆる攻撃を撃退する準備が整っていると確信していると述べた一方で、しかしウクライナ南東の”独立地域”住民への大規模な分断・切り取りは将来ロシアにとって戦闘も含む深刻な脅威を突きつけることになるだろうとの予測を語った。



記者「ウクライナ当局とその職員は今後の軍事的構造改革に関しての情報を積極的に広めている。そこではウクライナ軍の”スイス流”への移行が語られている。つまり、スイスにおいて採用されている、領土防衛は男性国民のほぼ全てが担い、予備役の人々は軍服や兵器を含む装備を自宅に準備しておくというやり方のことだ。もし戒厳令が発令された場合、予備役軍人は予め定められ大砲や装甲車が配備されている地点に集合しその後に戦闘に参加する。ウクライナにおいて、この方式はどの程度現実味があるのか?」

Franz Klintsevich「常識とプロセスの最適化という観点から見て、スイス軍モデルはよく機能すると考えられる。このモデルはスイスだけではなく、イスラエルアメリカの一部の州などでも有効だ。武器は指定地域のどこかに貯蔵される。しかし我々は、武器貯蔵には特別の環境―武器弾薬のための安全な保管施設―が必要になるということを理解しなければならない。このケースでは、すべての装備が保管されている事について指揮官のチェックを受けていなければならない。ウクライナにはこれを実行する資金も時間もなく、したがって不可能だ。付け加えて、我々はこの方式は単純に危険だということを忘れるべきではない。なぜなら、安全の鍵を握っているのは予備役達になるからだ。もしそうでなければ、この制度の目的は達成できない。」


記者「なぜウクライナは自身の戦闘能力の増大に傾倒しているのか?」

Franz Klintsevich「ウクライナの指導者によると、彼らはロシアからの侵略に備えているということだ。彼らはもっとも重要な秘密を知らない。それはロシアはウクライナに対して軍事的に侵略を行う如何なる計画や準備も行っていないという事実だ。しかし我々は、ウクライナの軍事力増強がロシア連邦市民とその領土の脅威となるのであれば彼らに対して十分に深刻的な打撃を与えると警告しておく。」


記者「それだけが考えうる理由なのか?」

Franz Klintsevich「今日、西側諸国はウクライナに対して経済・農業・社会が必要としている資金援助を行っていない。西側諸国は戦争に対してしか資金を支出する気がないだろう。なぜなら今や彼らは戦争を必要としているからだ。NATOをはノヴォロシアを踏み台として必要としている。つまりロシアの”柔らかい下腹部”なのだ。”ネットワーク中心の戦い(NCW)”理論において精密誘導兵器による大規模攻勢は核兵器の能力と拮抗し無効化する。もちろん、アメリカ人だけが一方的優位に立っているわけではなく我々もその種の兵器は保有している。しかしアメリカはそれらを効果的に使用してみせるのだ。」


記者「ロシアにとって大きな脅威とは何か?」

Franz Klintsevich「先述のそれが大きな脅威だ。さらに、バルト三国ポーランドなど旧ソ連邦構成国では新たな基地を建設している国もある。懐疑的なアマチュアの軍事評論家たちはそれらの基地に西側諸国はたった600人の米兵しか駐留させられないと言うが、近代的な航空機が発着する基地として機能させられるという事実を無視することは出来ない。だが心配する必要はない。我々はロシアの防衛を確実に遂行できる。私は核兵器による軍事衝突は起こりえないということを心から確信していると言わせてもらいたい。」


記者「自分にはウクライナ南東部での衝突に関する解決方が見えてこない」

Franz Klintsevich「ウクライナ南東部での戦闘は終結した。西側諸国は状況を我々の両肩に担わせようとして、”ロシアは民兵に圧力を掛けるのをやめようとしない”と言っている。しかし考えてみて欲しいのは、たった数カ月前に自分の家や高齢の両親を守るために武器を手にしたばかりの民兵に一体誰が圧力を掛けることが出来るだろうか、ということだ。正に一週間後彼らは武器を手放した瞬間に両親を殺されたのだ―そしてそれは完全に分断された後だった。ノヴォロシアに住む者ならだれでもそれが分かる。故に圧力を掛けることが出来るものなど存在しない。今日の西側諸国の課題は唯一つ。ロシアを如何にウクライナでの軍事衝突に引きずり込めるかということだ。彼らはそれを続けることが出来、我々はその為に傷つけられ殺される。」


記者「ノヴォロシアで起こる出来事の進展についての見通しの評価は?」

Franz Klintsevich「ありとあらゆることがノヴォロシアと関連して語られる。アメリカにとって非常に重要な事であるからだ。ノヴォロシアはロシアの向こうずねを蹴飛ばすことの出来る精密誘導兵器をホストさせる踏み台としてNATOにとっては必要なのだ。彼らは決してそれを公言したりはしないが、これこそが今や彼らがする必要のないはずの地元住民の分断を行っている理由なのだ。NATOはあらゆる出来事に対応しようと計画し、状況と経済を不安定化させ、そして国際的な緊張をもたらしかねない膨大な数のロシア領土内の難民はすぐにも710万人に達しようとしている。ウクライナでは別の問題も存在している。死者は3万1千人を超えている。犠牲者の多くは見捨てられて取り残された人々だった。しかしこの問題は未だ影響を与えており、犠牲者の親族や友人を通じてはっきりと現れている。彼らは、死んでしまいもはや呼び寄せることの出来ない家族が帰ってくると信じているのだ。」


記者「ノヴォロシア住民の分断についてどう考えるか?他にその原因はあるのか?」

Franz Klintsevich「ウクライナ南東部で住民たちが分断されている理由は他にもある。ルガンスク人民共
和国とドネツク民共和国にはシベリアの10倍以上ともいわれるシェールガスが眠っていると考えられており、それが理由だ。シェールガス採掘のため領土を切り取り、新たな緩衝地帯を創りだそうと西側は考えている。「我々はソ連など知ったことではない。最終目標はウクライナのドンバスだ。」とヒトラーはかつて述べたのだ。」



 インタビューは以上で終わりです。
 まず最初の質問はウクライナ軍の改革についてです。スイス方式のいわゆる国民皆兵制に関して、Franz Klintsevichは有効であると考えているもののウクライナにはそれを有効に活かすリソースが不足していると考えているようです。2013年に徴兵制を廃止した矢先の戦闘勃発で徴兵制を復活させたウクライナですが、予備役の活用も含めて迅速な初動を行うことに関しては苦慮しているようです。
 その次は「ウクライナに関して誰が悪いのか?西側だ」というお決まりの答弁が並びますが、その中で目を引くのが精密誘導兵器とネットワーク中心の戦い(NCW)に関しての言及です。両者を組み合わせることでNATOはロシアに核兵器にも対抗しうる大きな打撃を与えられるのであり、その橋頭堡としてウクライナを欲しているのだと主張しています。この分野でロシアが遅れていることも同時に認めており、重要なファクターだとみなしていることが伺えます。特にネットワーク中心の戦いに関しては米軍も理論に則した装備を配備しつつある段階であり正に最新理論で有るわけですが、それ故にそれらで効率的に襲撃されることを警戒しているようです。
 他方でバルト三国ポーランドなどかつてのソ連圏とも言える国々への西側の軍事的進出も潜在的脅威だと考えているようです。その後もインタビューではこれまた旧ソ連圏であるウクライナへのNATOの野心を背景とした進出を非難しており、この辺りには見るべき点は少ないかもしれません。しかし西側とロシアによるウクライナ分断の1つとしてシェールガスが挙げられています。ルガンスク人民共和国ドネツク民共和国の領域に膨大なシェールガスの埋蔵が見込まれるとのことですが、真偽の程はわかりません。ヒトラーの言葉を引用する形で登場したドンバスはドネツク民共和国の範疇に入りますが、つまり西側はシェールガス利権を得るために両地域の奪還を目論んでいてそれが分断を強めている原因だと主張しているわけです。従来から天然ガスパイプラインを通じてシェールガスウクライナと関連して語られてきましたが、直接ウクライナの領土からシェールガスが算出するという話は耳に新しいです。調べてみると欧米企業がウクライナに採掘技術を売りつけようとセールスしてたようですが、果たして採算がとれるのかどうかは記事でも明言されておらずはっきりしたことはわかりません。