ロシアはヨーロッパ通常戦力条約を完全に脱退する

Военное.РФ の記事によると、ロシアはヨーロッパ通常戦力条約を完全に脱退するようです。

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 NATO事務総長イェンス・ストルテンベルグ氏はブリュッセルで行われたプレスカンファレンスでロシアののヨーロッパ通常戦力条約(CFE条約)脱退について言及した。
氏は「我々はロシアのCFE条約への参加を凍結するという決定に失望している。兵器削減に関する協議は重要だ。」と述べている。一方ロシア政府は新たな兵器管理の枠組みを策定することに対して歓迎の意を表している。ロシア外務省不拡散・軍備管理問題局長ミハイル・ウリヤーノフ氏によると、CFE条約から脱退するというロシア政府の決定はヨーロッパの軍事的政治バランスに影響を与えないという。

 3月10日、ロシア政府はヨーロッパ通常戦力条約の合同協議グループ会議への参加を凍結することを発表した。今後のこの枠組におけるロシアの利益はベラルーシが代表すると考えられている。これに伴い、ロシアはCFE条約への参加は2007年から凍結していたが、2015年3月11日をもって完全にCFE条約を脱退することになった。ロシア政府はこの決定に関して「ロシアのCFE条約への参加は無駄なコストがかかるという財政的・経済的点観点から見ても、政治的・実務的に無意味なものになってしまったからだ」と説明している。
 2014年11月、ラブロフ外相は”CFE条約の死”に関してコメントしている。同時に彼はロシア政府にCFE条約の枠組みへ復帰する意思が無いことも強調していた。

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(↑NATOの東方拡大)

 ヨーロッパ通常戦力条約は核兵器を含まない通常戦力を削減する目的で締結された条約で、1990年にパリで調印され1992年に発効しています。NATO諸国の他ロシアをはじめとするワルシャワ条約機構参加国も締約しており、参加国は30ヶ国に及ぶものです。しかしロシアは、NATOが自らの陣営を拡大させ事実上の条項無視を行ってきた他にもっともらしい口実を設けることでCFE適合条約の効力発生を妨げてきたという意見から2007年にCFE条約への参加を凍結し、例外として協議グループの作業への参加を行ってきました。しかしラブロフ外相が述べた通り、その協議グループへの参加も(NATOの態度が変わらなかったために)無意味なものでコストの無駄だと見なし、CFE条約の枠組みから完全に脱退する決定に至ったようです。一方でロシアは通常戦力削減自体を拒否するものではなく、NATO諸国及びロシアの国益双方を満たす体制確立に向けて協力する準備は有ると述べています。
 ここで言うNATOの陣営拡大とは、恐らく”NATOの東方拡大”を指しているものと考えられます。つまり、旧ソ連圏である東欧諸国やバルト三国をもNATOに加盟させているという事実です。ロシアには「冷戦終結時にNATOは西ドイツ以東には手を出さないという約束を下にもかかわらず、NATOは東へ向かって軍事機構として膨張を続けた」という意識があり、自陣営をNATOが切り崩して行くことに対して不快感を表明してきました。

 またCFE条約脱退と呼応して、上記のロシア外務省不拡散・軍備管理問題局長ミハイル・ウリヤーノフ氏は編入したクリミア半島核兵器を配備する権利があるともコメントしています。CFE条約自体は核兵器の配備と直接の関係は有りませんが、ウクライナソ連からの独立後に米英露とブダペスト覚書を取り交わし、核兵器を廃棄する代わりに安全保障を得たという経緯があります。ウクライナはそれ以来は非核化されていたわけですが、ソ連崩壊時にも問題となった重要拠点のロシア海軍黒海艦隊の拠点であるセヴァストーポリ防衛や信頼しかねる相手であるNATOへの牽制という目的でクリミア半島への核配備はCFE条約脱退と関連した出来事です。