ウクライナが黒海艦隊の撤退を要求することを示唆

 Flot.comによると、ウクライナの臨時外務大臣Андрей Дещицаはクリミア半島からの黒海艦隊撤退の可能性を示唆したとのことです。
 「我々はウクライナとロシアの法的枠組みの状態を真剣に見直す必要があります。これは合意の全体に渡って適用されます。こういった分析は軍事力の段階的縮小という文脈において行われるべきものであり、ひょっとすると黒海地域の非軍事化も含まれるかもしれません。」臨時外務大臣はインタビューでそう語りました。また彼は新しいウクライナ当局は最近のロシアの侵略行動を考慮し、仮にロシア軍部隊が武器を使用した場合は軍事援助を西側に求めるつもりであることを強調しました。

(↑ロシア海軍黒海艦隊旗艦巡洋艦モスクワ) 

 状況がめまぐるしく変化するウクライナ情勢ですが、クリミア半島はロシアにとってある意味特別な存在です。18世紀に当時のロシア帝国露土戦争により併合して以来は国体が変化してもロシアの国土であり、当時半島に原住していたクリミア・タタール人第二次世界大戦中に移住させられたためロシア系住民の比率が高くなりました。後にフルシチョフ第一書記がウクライナソビエト社会主義共和国へ移管したためウクライナ領となりソ連崩壊を経て現代に至ります。またウクライナの国土そのものがかつてはポーランドが領有するなどしてヨーロッパ色の強い西部地域とモスクワ大公国が支配したロシア色の強い東部からなるという事情もあり、ロシアに対する姿勢は独立ウクライナに内部対立をもたらす一種の懸案事項でした。そんな中で特にロシア系住民が多いクリミア半島ソ連崩壊後に独立を宣言するなど度々先鋭化した動きを見せます。また、クリミア半島先端部に位置するセヴァストーポリにはソ連海軍黒海艦隊が駐留しているわけですが、ソ連崩壊後にこれ帰属についてウクライナとロシアは対立します。艦隊自体はロシアが支配しているが、駐留している場所はウクライナ領土だからです。結局は黒海艦隊を分割して一部をウクライナ海軍が運用し残りはロシア海軍黒海艦隊として引き継ぐことに落ち着きますが、黒海艦隊の駐留と基地使用権は度々両国の争点として燻ってきました。1997年にウクライナとロシアが結んだ協定では20年間―2017年まで―の基地使用権をロシアに認めましたが2010年のヤヌコビッチ大統領時代にこれを延長し2042年までとする決定がなされました(その内容はこちら)。ウクライナ議会は批准に反対する野党が議長に生卵を投げつけるなど激しい闘いが行われたことからもこの問題に関する感情が伺えます。またウクライナとロシアの天然ガス供給問題で紛争が起きると黒海艦隊の駐留がやり玉に挙げられるなど、黒海艦隊の駐留は長らく燻ってきた問題です。

 今回のように事態が深刻化すると黒海艦隊をクリミア半島から排除しようという意見が出てくるのはある意味当然であり、実際に実行するかどうかはともかくロシア系の対極に位置するとも言える現在のキエフからこういった発言が飛び出てくる事が特に不思議なこととはいえません。共同通信「ウクライナへの軍事介入は回避」するというプーチン大統領の会見を速報していますが、仮にそうであったとしても今回の行動はロシアの明確な警告と西側の対応をウクライナは十分味わうことになるでしょう。

北方艦隊は北極海のロシア国境の安全保障において十分ではない

 RIAノーボスチによると、1月23日、Academy of Geopolitical Problemsの副所長Konstantin Sivkovは北方艦隊は北極海におけるロシア国境の安全保障任務を完全には遂行できないと語りました。
 以前、ロシア国防相のセルゲイ・ショイグは「北極海インフラストラクチャーの整備が今年の国防省の優先課題の一つとなるだろう」と語っています。2014年には計画に従って北極海におけるロシア軍の態勢は整えられているべきだと考えられています。「今日の北方艦隊は、この広大なエリアの国家安全保障の単純な問題でさえ十分に解決できる能力が有るとはいえません。我々の国境の警備は海軍の十分な戦闘部隊の整備によってのみ達成することができるということは記憶にとどめておかなければなりません。」とSivkovはノーボスチに語っています。また、モスクワ国際関係大学の国際関係学部教授であるAndrei Zagorskiは北極海地域において武装した軍隊同士が衝突する可能性について「最小限である」と述べています。

(↑原子力砕氷船”ヤマル”)
 北極海はかつての冷戦時代は戦略原潜が報復攻撃に備えて待機している場所であり自国の戦略原潜のための”聖域”の確保と北極海のどこかに潜む敵戦略原潜の動向を探らなければならない(交戦して駆逐することはもちろん平時に不要に接近して緊張を高めることを避けるためにもある程度所在を知る必要はある)という事情において重要な海域でしたが、地球温暖化により北極海の流氷が減少しつつある今は資源開発・航路開拓が活発になりつつ有るため今後北極海において自国の勢力圏を確保しなければならないという理由で重要性は高まっています。航路開拓については、ロシア国営企業”ロスアトムフロート”が「北極海航路を使い、アジアと欧州間を結んだ貨物船が昨年は71隻に上り、前年の1・5倍に急増した」と発表しています。政府も貨物船の先導に使用する原子力砕氷船を4000億円かけて3隻新造することを決定しており、既存の艦艇も含めて合計8隻に達するとのことです。遭難した航空機や船舶を救助するための基地も設置するなど本格的に航路を使用すべく活動しています。また軍も北極海に豊富にある資源を防衛するための計画を立案していることは以前も記事にしています。そこでは、ロシア軍が北方艦隊向けに求めている艦艇は「氷海である北極海で長期間活動する能力を持ち動力は原子力であること」、そしてそれとは別に「バレンツ海やカラ海そして北極海のいわゆる沿岸域で活動できる軍艦」でした。これらの艦艇は”ロシアの海洋経済活動の安全”を守るために必要であり、投入が想定される任務として「シュトックマンの海底ガス田とその生産プラントの保護」が挙げられていました。同ガス田は世界第八位の埋蔵量を誇るとされており、戦略的に重要な地点だと言えるでしょう。また、シュトックマンガス田以外にもペチョラ海・カラ海・バレンツ海は多くの石油及びガスの埋蔵が確認されているため氷海でも長期間行動できる艦艇の整備は必須でしょう。

(↑北極海周辺部には多くの資源が埋蔵されている)
原子力を動力にすると考えているところも興味深い点です。また、これと平行して2020年までに北極海向け支援艦艇も建造開始するとしています
 ロシア北極海沿岸の”アジア側”ではノボシビルスク諸島に軍事基地が再建されています。基地の再建には北方艦隊から部隊が派遣されているようです。今後はノボシビルスク諸島の基地の様な監視拠点の増設や部隊駐留に必要なインフラ整備、北極海における北方艦隊の活動を支える装備の整備が行われかつてとは異なる任務を”十分に果たせる状態”になっていくと予想されます。Andrei Zagorskiの言及している北極海における軍隊同士が衝突する可能性については、再び軍が北極海を重視する理由がかつての冷戦時代とは異なり権益確保などを中心とした警備任務目的であるからでしょうか?

イランがロシアとのS-300を巡る契約の正当性を改めて主張

 RIAノーボスチによると、12月17日、駐ロシア大使はロシアメディアに対して「テヘランはロシアとのS-300の供給を巡る契約を信じており、その性能を期待しています。イランは署名された防御兵器の供給に関する契約が正当なものであると信じています。その意味において、S-300はイランに供給されるべきです。」と語り、改めてイランのS-300の取得が正当なものであると主張しました。

 中東においては大まかに言えばイスラエルとその他アラブ諸国が様々な面において対立しており、軍事面ではイランはイスラエルの核保有を非難し一方でイスラエルはイランの核開発を軍事目的のものであると弾劾しています。近年のイスラエルは有力な空軍力により近隣諸国に対してある程度のアドバンテージを確保しています。オシラク原子炉を爆撃した有名なバビロン作戦などはその端的な例として挙げられますし、第三次中東戦争においてはイスラエル空軍機が各国空軍基地を奇襲することにより制空権を確保し戦闘を有利に進めています。
 イスラエルとしては軍事力を背景とした影響力・発言力を維持することはもちろん国を守るためには、アラブ諸国V.S.イスラエルという構図になると人員面で不利になるためイスラエル空軍を中東における”最優秀空軍”に保つことで敵の攻撃意図を挫き味方の損害を最小限に抑える必要があります。制空権を奪われた軍隊と確保した軍隊の差は第三次中東戦争の様子を見れば一目瞭然です。また有力な空軍を保有することは国益を勘案した場合にバビロン作戦の様なオプションを実行できるため好都合といえます。
 しかし高性能な防空兵器であるS-300をイランが保有するとイスラエルにとっては自らの空軍力を先制攻撃でイランへ投射することが困難になるばかりか、これまでは力押しで行ってきた様なイラン周辺のイスラエル空軍機の行動も制限されてしまいます。S-300が中東におけるゲームチェンジャーと呼ばれる所以でしょう。強力なイスラエルを支えてきた空軍力の投射に支障をきたすということは、戦力バランスが崩れひいては政治にも影響を及ぼします。
 現在、イラン陸軍が保有している防空システムはベトナム戦争時代からのSA-2"ガイドライン"(S-75)と第四次中東戦争イスラエル空軍機を苦しめたSA-6"クーブ"(2K12)、そしてパフレヴィー朝時代にアメリカから輸入したMIM-23"ホーク"であり、バージョンにより差異があるので正確な数値はわからないもののいずれも射程は30km前後です。
 古のSA-2は元々は戦略爆撃機の様な高空から進入する鈍重な目標を想定したシステムで、ベトナム戦争では工夫された運用法により米軍に相応の出血を強いましたが中東戦争当時既に戦闘機に搭載可能なECMでほぼ無効化されていた事と大型目標向けである事を考えると、現在のイスラエル空軍の戦闘機にとってさしたる脅威とは言えないでしょう。SA-6は第四次中東戦争で投入され、SA-2などの情報に基いて築かれた当時のイスラエル空軍機のECMでは欺瞞することが出来ず、さらにHome On Jamming能力を備えていたためイスラエル空軍を苦しめます。しかしECM装置の改修やECMポッドの携行により被害の低減に成功しているのでこれも現代の技術ベースで考えるとイスラエルに先制攻撃を思いとどまらせるほどの強制力は無いでしょう。MIM-23"ホーク"SAMはどの様な改修がなされているかは不明なのでなんとも言えませんが、古いミサイルですからこれもイスラエルに対する強制力は無いと見て構わないと思います。
 その点、S-300はアメリカのMIM-104"パトリオット"と比較される世代のシステムですからより新しいものであり、実際SA-1・SA-2・SA-125の後継として開発されています。使用されるミサイルは最も初期型のもので47kmあり、最大で200kmに迫る射程を持ちます。システムとしても前世代よりも洗練されており、ミサイルはキャニスターに装填され垂直発射により発射されるため即応性に優れていると考えられまた牽引式で機動力のなかったSA-2と異なりランチャー自体が自走化されています(師団防空を想定したSA-6は自走可能)。このように射程が長くECCM能力に優れなおかつ機動力があり様々な地点に配備できる防空システムをイランが導入すればイスラエル軍の行動を妨げることは明らかであり、イスラエルが導入を嫌うのは当たり前のことです。仮にイランの核開発問題においてバビロン作戦の様な介入を行おうとしてもS-300の存在はそれを躊躇わせてしまいます。一方でイラン側からすれば防空兵器ですからイスラエルに文句を言われる筋合いはないという言い分でしょう。。S-300の売却はイラン―イスラエル間の問題以外にもトルコ―キプロス間にもかつて存在しており、その能力の高さによる抑止力は十分期待できます。。

 S-300のイランへの売却自体は2007年に締結され、2010年には欧米メディアがイラン革命防衛隊の部隊がロシアでS-300を扱う教育を受けていると報道しています。イスラエルは当時からS-300売却には反対しています。そしてイランのウラン濃縮拒否に伴う安全保障理事会決議1929号によりイランに対する制裁でイランに対するミサイル供給が禁止され、2010年9月にはメドベージェフ大統領(当時)はS-300売却を禁じる決議に同意しています。この決定に対しイランはロシアに対し4億ドルの賠償を求めたものの、2013年9月にこの賠償要求を取り下げることを条件にS-300をイランに供給することをプーチン大統領は決定しました。実際には、インタファクス通信が2010年8月にイランがベラルーシからS-300を4基入手したと報じています
 ロシアはS-300を"外交の駒"として活用しているようで、以前にもシリアにS-300を売却するという報道がありました(S-300の供給話が出ては消え消えては出てを繰り返しているのを尻目に、ブークM2やパーンツィリS2などの短距離防空兵器は供給が続いているようです)。この場合もイスラエルの危険度は上昇するわけで、実際イスラエルヒズボラがアサド政権の保有する化学兵器を入手することを懸念して航空攻撃を加えているので、シリアがS-300を導入する可能性についてはかなり実際的な危機感も有ったのではないでしょうか。もちろん他にも手は尽くしたことは間違いないですが、S-300を利用してイスラエルのバックに付くアメリカを化学兵器全廃を条件に武力介入しない事を求める交渉のテーブルに引きずりだしたとしたとも考えられます。

 これに対抗するイスラエル側ですが、遠隔地への迅速な戦力投射の方法を航空機以外にも模索しています。シリア内戦が激しかった2013年7月5日にシリアはラタキア武器貯蔵庫がイスラエルによって破壊されています。その武器貯蔵庫にはロシアの新型超音速巡航ミサイルP-800"ヤホント"が50基ほど格納されていたとされています。当初はイスラエル空軍機による空爆で破壊されたと報道されましたが、後にイスラエル海軍のドルフィン級潜水艦からの巡航ミサイル攻撃だとされています。この出来事はイスラエルは航空機による空爆と同じことを潜水艦から発射される巡航ミサイルでもやってのけることが可能だということを意味します。同級は普段からイランに対する報復攻撃を加えるべくローテーション配備されていると考えられており、イスラエルは航空攻撃に加えて新たな攻撃オプションを手に入れたということです。内戦で混乱状態とはいえシリアも一定の防空能力は保持しているのでそれをすり抜けて武器庫を破壊したことには一定の評価を下せるはずです。
 また、イスラエルは将来的にF-35保有を目指しており、航続距離の問題はありますがF-35のステルス能力とワイルド・ウィーゼル機材を組み合わせればS-300にもそれなりに対抗していくことは可能かもしれません。

 イランは国連安全保障理事会決議1929号以前は本格的なBMDに対応したS-300Vを希望していたようですが実際に調達されるのは果たしてS-300Vになるか、陸上配備通常型のS-300P系列になるのか・・・。

ロシア国防省は小型UAV”エレロン-3SV”を購入する

 RIAノーボスチによると、ロシア国防省は企業”エニックス”と34機のドローンを含む無人航空機(UAV)の”エレロン-3SV”(Элерон-3СВ)複合体を1億ルーブル以上の価格で購入することに合意しました。
 主任設計士のミハイル・ザヴァリーはノーボスチに「私達はこれら複合体の供給のために国防省と契約を行い、つい昨日調印されました。」と語りました。「正確な金額は申し上げられませんが、それは1億ルーブル以上の価格でした。」彼は続けました。彼によれば同社は2014年中に契約を完遂することを予定しているとのこと。「ロシア軍はUAVを大幅に改良しているでしょう。エニックスの現行機は過去の開発機とは単に外見のみが類似しているだけです。」と強調しました。
 彼によれば、”エレロン-3SV”の価格は海外で開発された同クラスのUAV―例えば"Watchtower"UAV―と比べて約5倍も低価格だということです。その"Watchtower"UAVは2010年にロシアとイスラエルが交わした契約によりロシアで生産されることに成ったUAVです。
 ”エルロン-3SV”は短距離の偵察任務を想定した機体で安定化装置を備えた可視光カメラや10倍増幅の熱線映像装置及び低照度熱線映像装置の機材と他の交換可能なペイロードを備えます。最大離陸重量は5.3kgでありその際は1kgまでのペイロードを積載可能です。最高速度は時速130kmで最大4000mまで上昇できます。

(”エレロン-3SV”) 
 ロシア軍の導入する戦術級偵察UAVについての情報です。現在の一般的なUAVの用途についてはMQ-9"リーパー"の様な攻撃任務を含んだ多用途向け、大掛かりなISR任務向けと小規模な戦術的な偵察任務向けに大別されるわけですが、ISR任務と並び戦術偵察においてもUAVの恩恵は大きいものです。小型のUAVであれば比較的小規模な部隊で必要な情報を入手するための偵察を人的被害を心配せずに実施できるからです。戦術偵察向けUAVにも分隊単位でも運用できそうな手投げ式で個人でも運用可能な機体や今回の”エレロン-3SV”から比較的大掛かりなタイプまで存在します。前者は末端部隊が進行中に必要に応じて偵察を行うのに利用され、後者は司令部配備あるいはそれ専用の部隊に集中して配備されある程度の戦略決定に供されるのでしょう。活発に開発が行われてきたのは後者ですが、技術の進歩によりさらなる小型化が実現されたため最近では前者の開発が一種の”最先端の流行”になっているように思います。画像を見る限り本機は小型カタパルトから射出するタイプため手投げ式と比べ少々大掛かりで運用上の手間は増加しますが十分に小型といえる規模でしょう(それにしても槍玉に挙げられていた"Watchtower"UAVとは規模がだいぶ異なるように思われますが・・・)。ロシアとしても世界の趨勢に乗り遅れないようしっかり技術の研究開発と運用方法の模索は行っていくということです。

2013年中にSLBM”ブラヴァー”の追加発射は行われない

 RIAノーボスチによると、2013年内にはSLBMブラヴァー”を追加で発射することはないとのこと。

(↑”ブラヴァー”の発射)
 現時点では、作業は前回の失敗した発射―9月6日に北海の”アレクサンドル・ネフスキー”で行われ2分間の飛行を行ったが、ブラヴァーのオンボードロケットシステムに何か不具合があった―の原因を究明している最中です。
ロシア連邦軍産複合体の関係者によると、発射の失敗後に決定された”ブラヴァー”の追加発射は2013年が終わるまでには行われないとのこと。
「私は原因究明のための”篩掛け”のミサイル発射が2013年のうちに行われる事に疑問を抱いています。前回の発射の失敗が引き起こされた原因を探る研究が継続されると考えられます。結論がくだされた時、ミサイルの特殊な諸元のテストを始める事ができるようになるでしょう。」スポークスマンはそう述べました。
 9月6日の北海で”アレクサンドル・ネフスキー”において行われた”ブラヴァー”の発射実験でオンボードされたロケットシステムに不具合が発生しました。その点については、戦略原潜アレクサンドル・ネフスキー”及び”ウラジーミル・モノマーフ”のテストの凍結と追加で5回のブラヴァー発射実験が決定されました。

(↑ボレイ級2番艦”アレクサンドル・ネフスキー”のマーク)
 9月6日のブラヴァー発射失敗の原因は「推進用ノズルの材料に関する製造上の技術的違反」であり、ミサイルに関連したその他のシステムには不具合が無いとRIAノーボスチは報道しており代替措置も取られているとのことです。2013年中に追加発射を行わないのは、ミサイル側の問題や原因究明の為の時間が必要ということも有るでしょうが、恒例のミサイル発射地点である北海が冬の到来と共に気象環境の悪化するということも有るでしょう。ブラヴァーの試射が行われていた頃から、冬〜初夏にかけては潜水艦からの発射は避けられていました。
 また、凍結されている”アレクサンドル・ネフスキー”と”ウラジーミル・モノマーフ”の試験については見直されるという報道もあります。そして近日中にはボレイ級2番艦の”アレクサンドル・ネフスキー”が海軍に引き渡され公式国旗掲揚式典が12月中に実施される見通しです。

ボレイ級は攻撃型原潜としては運用されないだろう

 先に伝えた記事の続報で、ブラヴァSLBMの無いボレイ級についての処遇に関してです。
 
 海軍中央ポータルFLOT.comによると、ボレイ級が多目的原潜として運用されるかもしれないというのは誤りだということです。
「一部のメディアが報じている、”ボレイ級戦略原潜”がロシア海軍に採用され攻撃型原潜として運用されるという情報は誤りです。」と11月1日に参謀部員がイタルタス通信にコメントしました。「戦略原潜を多目的原潜に分類することは現在実行されていないし、計画されてもいません。所謂”多目的原潜”―通常魚雷を使用する原子力潜水艦を含む―としての機能はボレイ級の核心ではありません。それよ故に、ボレイ級を攻撃型原潜として運用することは戦略爆撃機Tu-160を前線戦闘機として扱うようなものです。」参謀部員は注意を促しました。

 ”攻め”の姿勢で作戦を展開することが求められる攻撃型原潜と、自らが攻勢に出て戦果を上げるのではなく弾道ミサイルを発射する時以外はなるべく存在を秘匿することの求められる戦略原潜とでは搭載される装備は自ずと異なってきますし、第一巨大な弾道ミサイルを16発(プロジェクト955、ボレイ級)搭載するよう設計された巨大な船体が攻撃型原潜に求められる機動性を満たすはずがありません。どのみち、先に書いた記事でも述べたように、ブラヴァSLBMを運用できる状態で艦隊編成に組み込まれれるかミサイル無しで海軍に引き渡され実戦部隊への配備は保留されるかのどちらかでしょう。ショイグ国防相の決定した”試射としてブラヴァーを5発発射する”という方針からすると後者が採用される可能性が高いのではないでしょうか。

ロシア海軍はボレイ級戦略原潜を一時的に多目的潜水艦として運用する?

 RIAノーボスチによると、ロシア海軍は一時的にプロジェクト955のボレイ級の2番艦K-550”アレクサンドル・ネフスキー”と3番艦”ウラジミール・モノマーフ”を戦略原潜としてではなく多目的攻撃原潜として運用する可能性があるとのこと。

(↑ボレイ級戦略原潜
 上級参謀主席は、ボレイ級においてSLBM”3M14 ブラヴァー”ではなく通常の魚雷とロケット魚雷を運用することは考えられることだとRIAノーボスチに語りました。2012年末に海軍に引き渡されたボレイ級1番艦のK-535”ユーリー・ドルゴルーキー”で9月6日に行われた前回のブラヴァーSLBM発射の失敗を受けて国防相セルゲイ・ショイグはボレイ級の艦隊への編入を凍結しさらに5発のブラヴァSLBMの試射を行い様子を見ることを決定しました。
 しかしそうしている間にも2番艦の”アレクサンドル・ネフスキー”は2013年末に艦隊に編入される予定であり、そのように準備されてきました。そのため先ほどの参謀は「”アレクサンドル・ネフスキー”を稼動状態に置くため、”ブラヴァSLBM”の代わりに系統的な艦載魚雷とロケット魚雷を搭載して多目的攻撃型原潜として運用することもあり得ます。実際に、技術科学の博士は学校で数学の教師として教鞭を執れます。」と述べ、ボレイ級を攻撃型原潜として運用することの妥当性を訴えました。
 彼によれば、このような暫定的な決定はアレクサンドル・ネフスキーについてのみ行われる可能性があり、他の艦については何も言及されていない。潜水艦のクルーは海上で任務を行いつつブラヴァSLBMに関する問題を解決するための訓練に従事することができるとしています。
 彼は今回の事態について、ラーダ級ディーゼル潜水艦の1番艦B-585”サンクトペテルブルク”を思い起こすよう提起しました。「”サンクトペテルブルク”が早くも曳航試験の段階で2010年初頭に採用されたにもかかわらず未だにその当時の扱いのままであり現時点で戦闘部隊に編入されていません。彼は北方艦隊で試験を行っています」と述べ、海軍への採用と戦闘部隊への編入を分けて考えるよう促したようです。

(↑海面下から発射されるブラヴァSLBM
 戦略原潜を多目的原潜として運用するという字面はインパクトのあるものですが、結局のところボレイ級をブラヴァーの不安がなくなるまで実戦部隊への編入を保留したままにするか魚雷で武装した状態で艦隊に編入するかどちらかの処置をとることになるかもしれない、という話でしょう。2番艦の”アレクサンドル・ネフスキー”の引き渡しまでに5発の試射を行うことは日程的・発射地点の環境的(流氷)にも不可能なのでいずれかの措置が選ばれると思われます。