潜水艦"ドミトリー・ドンスコイ"近況

 Flot.comより、プロジェクト941UM"ドミトリー・ドンスコイ"に関する近況です。

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 2014年6月9日の朝に戦略原潜(SSBN)"ドミトリー・ドンスコイ"―プロジェクト941"アクラ"型―は出港した。この件に関し中央海軍ポータルは北方艦隊の情報源より情報を得ている。
 周知の通り最後のプロジェクト941"アクラ"型となった"ドミトリー・ドンスコイ"は6月9日にセヴェロドヴィンスクの"セヴマシュ"を離れ海へ出た。彼の出港の目的・任務については知らされていない。

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 そしてFlot.comは"ドミトリー・ドンスコイ"が6月19日にセヴェロドヴィンスクへ帰投したことを報じています。

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 6月19日、戦略原潜(SSBN)"ドミトリー・ドンスコイ"はセヴェロドヴィンスクのベロモルスク海軍基地に帰投した。
 "ドミトリー・ドンスコイ"が6月9日に出港したことを想起させられます。
 以前の報道によると、"ドミトリー・ドンスコイ"からのSLBM"ブラヴァー"の発射は継続される。しかし、イタルタス通信の伝える所によると、2014年に"ブラヴァー"の発射を行う計画があるのはプロジェクト955A"アレクサンドル・ネフスキー"(ボレイ級2番艦)と"ウラジーミル・モノマーフ"(ボレイ級3番艦)のみである。

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つまり、6月9日〜19日の間"ドミトリー・ドンスコイ"は詳細不明の任務に就いていたわけですが、実はこの間にボレイ級3番艦"ウラジーミル・モノマーフ"の洋上試験が行われています。期間は6月11日から開始され約2週間とのことです。"ドミトリー・ドンスコイ"はSLBM"ブラヴァー"の発射にも従事してきた艦ですので、両者に何らかの関係があるとすれば"ウラジーミル・モノマーフ"の支援を行っていたのでしょう。"ドミトリー・ドンスコイ"に関しては兵装実験艦・実験支援艦として運用されることになっているので確度の高い推測が可能だと思います。

ロシア向けミストラル級はロシア製衛星通信システムを搭載する

 Flot.comによると、ロシア向けミストラル級にはフランス製の旧式衛星通信システム”シラクス(Syracuse)”の代わりにロシア製の”ケンタウルス”が搭載されるとのことです。

(↑ミストラル級)
 元々はロシア向けミストラル級も西側の衛星通信システム”シラクス”の発展型を搭載する計画であったようですが、最終的にはフランス側は1番艦”ウラジオストク”に旧式の衛星通信システムしか供給できないと通告しました。そのためにロシア製の衛星通信システムが搭載されることになりました。「特に外国技術の導入は情報の開示に繋がることもあります。」海軍幹部に近い情報源はそう語りました。さらに彼は付け加えて船は最終的な艤装はサンクトペテルブルグで行われて完成されるだろうと述べました。しかし、ロシアの軍事専門家は、ミストラル級のロシア建造分がフランスのサンナゼール港へ輸送される前に、通信機器設置に関する会議が行われさらに国産通信機器の試験が実施されるとしています。
 資料によると、従来ロシア海軍で使用されてきた機器に加えてHF波及びVHF波の受信機及び発信機として確立されている”P-794-1”が”ウラジオストク”に搭載され、これらは衛星通信システム”ケンタウルス”の発展型であるとのことです。このシステムは船舶間及び地上局と512kbit/秒のデータ通信を可能にするとされています。しかし、専門家たちは他のフランス製装備とロシア製通信機器とのインテグレーションに問題が生じることを恐れています。
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(←”ケンタウルス HM1”アンテナ)
 先日もフランス製戦術情報処理システムの供給の可否について報道が錯綜したミストラル級ですが、衛星通信システムについても供給の問題が有るようです。
 フランス製の通信衛星を利用した”シラクス”の代わりに搭載される”ケンタウルス”ですが、民生品のようです。”Вигстар”という衛星通信機器を製造している会社の製品で、”ケンタウルス”はシリーズの名称となっています。カタログを見る限りではおそらくミストラル級に搭載されるのは”ケンタウルス HM1”(ないしHM3)でしょう。海自艦でいうところの高速データ通信が可能になったNORQ-1 スーパーバード衛星通信アンテナに相当する製品です。NORQ-1はKuバンドを利用しIPネットワークを使用した通信ができるとされていますが、”ケンタウルス”の使用する波長は不明です。他の機器がフランス製であるのに対し通信システムはロシア製ということでインテグレーションを心配する専門家が存在することは当然ですが、インテグレーションの難易度は2番艦”セヴァストーポリ”から搭載される見込みのロシア製戦術情報処理”SIGMA-E”の方が高いでしょうから言うだけ無駄のような気もします。

回避行動中の潜水艦による魚雷発射についてロシアは研究している

 イズベスチヤが「ロシア海軍の魚雷は敵を回避中に発射可能となり、ロシアの潜水艦隊は戦闘で有利になるでしょう。」と銘打って記事を書いていました。

 ロシアの潜水艦技術は、敵の兵器を回避しながら安全に魚雷を発射する技術を取得しなければなりません。海軍の開発資料によると、関連性の有る研究がクリロフスカヤ国立科学研究所で開始されています。潜水艦としてそのような能力を備えた艦を保有している国はありません。
 魚雷を発射するためには、潜水艦は停止するか直進する必要がありますが、これらの行動は自身の脆弱性を高めてしまいます。計画の委任事項によれば、「様々な種別の兵器と自己防衛における機動中の魚雷発射の意味と潜水艦の確実な魚雷発射に関する一般的勧告の包括的研究」が行われます。そこには「価値のある典型的な武器に対して適用できなければならない」技術であると記されています。この技術は潜水艦の戦闘効率を高める―特に1対1の決闘のような環境において―と考えられています。イズベスチヤによって報道されたようにクリロフスカヤ国立研究所でのこの成果が既存の潜水艦隊をアップグレードするためだけに使用されるのではなく、新しい種類の兵器―魚雷と潜水艦―を創りだすのにも用いられます。魚雷を用いた戦闘に関する専門家は、既存の潜水艦からの魚雷発射の規定では魚雷は静止した状態か直進している時のみ発射されると説明しました。魚雷を発射するために潜水艦が停止するというのです。
 複雑な機動をすることは、魚雷の誘導システムと干渉する可能性があり、さらに艦体を回転させることで側面に強い水流が発生しそれにより魚雷の表面が破壊されてしまう恐れがあります。これは瞬間的に一度だけ起こるのではなく繰り返し発生し、細身な魚雷は水によって破壊されてしまうのです。「機動中に魚雷を発射することは全面的に禁止されている―これは学校や研究施設で最初に教わることです。」と専門家は述べています。
 ロシア海軍ではこの問題は解決されていませんが、米軍もまた然りです。研究計画の委任事項は「潜水艦が機動している際の魚雷発射を禁じる規定の存在に関連して、そういった禁止された発射の安全性はこれまで考察されていない。」と述べており、「技術導入によりこういった制限を撤廃する必要がある」とされています。クリロフスカヤ国立科学研究所の専門家は「ヘヴィー・トラフィック誘導システムは魚雷に間違った目標の方向を指示する可能性があります」と注意を促しました。「魚雷が定めた目標からある特定の距離に別の音源を発見したら、その後の行動を再思考させることができます。」
 回避行動中の魚雷発射について、ウラジーミル・ザハロフ退役少将は「敵を回避している最中の潜水艦はしばしば魚雷発射の為に停止できない状況に置かれる」と述べています。委任事項には「研究成果は魚雷・ロケット魚雷と自己防衛手段に使用されるだろう」と記されています。この研究は2016年に完了予定で、1億6500万ルーブルが割り当てられています。


 イズベスチヤの特集記事ですが、翻訳はかなり怪しい部分があるので割り引いて読んでください。話の大筋としては「ロシアは回避行動中の潜水艦から魚雷を発射可能にする」というものです。
 音響誘導魚雷の誘導方式はパッシブホーミングとアクティブホーミングそして有線誘導に大別されます。パッシブホーミングは魚雷に搭載されたパッシブソナーで音源を聴き取り予めセットされた音紋と符合する目標を追尾するものと解釈されています。アクティブホーミングは、魚雷のアクティブソナーで探針音波を発しそれにより目標が反射してきた音を追跡する方式とされています。有線誘導は母艦のソナーを利用して解析した目標の位置をワイヤーを通して魚雷に送り、魚雷はその指示どおりに走行する仕組みです。これら誘導方式の他にどのように魚雷を走行させて目標を探索するかなどをプログラムしてから潜水艦から発射されるのですが、いずれの方式も「音」を誘導に利用している以上音についてはシビアな面もあります。例えばパッシブホーミングではそもそも相手の発する何らかの音を捉える必要があるので、ある程度の速度で相手が移動していなければ探知できないとされています。また魚雷が高速走行していると当然相手の音を捉えられないので、目標捜索中は低速走行するとされています(余談ですが、最近の魚雷では敵に自身を探知されるのを防ぐため捜索が終わっても目標に接近し切るまでは低速走行するものもあると言われています)。また先に発射した魚雷とあまりに連続して発射されると前の魚雷の走行音を拾ってしまい上手く機能しないなどとも言われています。このように音についてシビアな魚雷を、雑音を発生させながら走行する潜水艦から発射するのには何らかの問題が存在するのではないでしょうか(潜水艦の発する音は後ろの方向へ作用すると思いますが)。また、有線誘導の場合は派手に動くと誘導ワイヤーが船体に絡みつくのでこちらは誘導中の機動が制限されることは容易に想像できます。
 記事中で他に発射の障害となる要素として挙げられているのが、潜水艦によって発生する水流の様です。魚雷は水中での抵抗を軽減すべく細身に作られているので、潜水艦の巨体から発生する水流で破壊される恐れがあると書かれています。
 ロシアはこれらの問題を克服すべく研究を行っているようですが、どうなるかは未知数です。派手な機動をしつつ魚雷を発射出来るのであれば、最近の短魚雷市場を賑わわせている「対魚雷魚雷(迎撃魚雷)」の運用も想定しているのでしょうか。文中に出てくる”自己防衛”は恐らくこれを指しているのだと思います。

フランスはロシア向けミストラル級へSENIT-9システムを供給する

 RIAノーボスチの報道によると、フランスはロシア向けミストラル級へSENIT-9を予定通り供給する意向だということです。

(↑ミストラル級)
 統合造船業営団の情報源はRIAノーボスチに対して、ウクライナに対するロシアの行動を受けてフランスはロシア向けミストラル級である”ウラジオストク”及び”セヴァストーポリ”にはフランス製の戦術情報処理システム”SENIT-9”を供給しないと伝えていたものの、実際にはそうではないようです。
以前はこの”革新的なシステム”が2隻に対して供給されないばかりかロシアのウクライナへの態度を鑑みて艦の建造を凍結する意図の表明を行ったと報道されました。しかし、実際には「フランスはすべての協定を完全に遵守しています。ロシア向けミストラル級へのSENIT-9の供給が拒否されたということはありません。」とスポークスマンが語った通りのようです。また彼は”ウラジオストク”と”セヴァストーポリ”が予定通り建造が継続されることも確認しています。2隻は2014年〜2015年にロシアへ到着することになるでしょう。
 公開された情報によると、戦術情報処理システム”SENIT-9”は戦闘艦艇の管制や周囲の環境について情報を収集する等のため設計された一連の技術的手段であり、”SENIT-9”はNATO軍の艦船、航空機、地上部隊との協調行動を重視し、その目的を達成するのに適切なソフトウェアを備えています。一方で”ロソボロンポスタフカ”(Рособоронпоставка)は自身のポータルサイトにおいて2400万ルーブル以上の価格で複合戦闘情報管理システム(CICS)”SIGMA-E”を供給するための公共入札に関する情報が含まれているとRIAノーボスチに語りました。その情報は国防省が”SIGMA-E”を2番艦の”セヴァストーポリ”に装備することを予定していると強調しています。
 2隻のミストラル級を12億ユーロでロシア向けに建造するという契約をロシア兵器輸出公社とフランスのDCNS社は2011年に調印しています。統合造船業営団はフランス側で建造を受け持つサンナゼール造船所の下請け企業としてこの契約に関与しています。

(↑ミストラル級内部)

 一時は供給が危ぶまれた”SENIT-9”ですが、予定通りロシアに供給されるようです。当初から"SENIT-9"がセットでロシアへ供給されるかどうかが話題になっていた感もあるので関心の的になるのも当然でしょうか。ウクライナの一件以来、ロシアはミストラル級が引き渡されなければ違約金を請求すると圧力をかけ一方フランスはそれに対し契約を履行すると返答しているので、あれ以来ウクライナに関してロシアが大きな行動を起こしていない現状ではそれを逸脱する可能性は少ないでしょうがモノがモノだけに情報が錯綜気味のようです。”SENIT-9”はフランスが開発するNATO互換の戦術情報処理である”SENIT”シリーズの最新版で、フォルバン級駆逐艦や空母シャルル・ド・ゴールに搭載された第三世代の”SENIT-8”を改良し指揮管制能力を強化したものと言われています。アビオニクスの役割が大きい現代では、情報処理の能力や効率如何によっておなじミストラル級というハードウェアでも作戦の遂行能力が大きく変化してしまうので、実際に検討されたのかただの風説なのかはわかりませんが”SENIT-9”を供給するかどうかが一種の圧力たりうると考えられたのでしょう。この手の情報処理の効率化や装備管制の自動化・システム化は西側が得意とするところであり、この分野においてソ連・ロシアは「遅れている」と見なされるのが通常です。しかし近年においては西側的な武器プラットフォームの集約や情報処理の統合化を推し進めており、ソ連崩壊以後建造されてきた中小規模の艦艇やアドミラル・ゴルシコフ級フリゲート(プロジェクト22350)はかなり「西側的な」装備となっています。
 "SIGMA-E"(СИГМА-Э)はロシア国産の戦術情報システムであり、このシステムが先に挙げた「西側的」な新型艦艇に搭載されていることからも情報処理やシステムの統合化をロシアも推し進めていることがわかります。"SIGMA-E"はФНПЦ ОАО "НПО "Марс"(マルス)の提供するシステムであり、ホームページでは"SIGMA-E"について「戦闘艦艇の管理と戦闘行動の為に設計され、電気システムを組み合わせ自動処理複合体とすることで戦闘における武器使用に関する決定を行います」と解説されています。単に各種センサーから情報を得て諸元算出するようなシステムではなく、アメリカでいうところのイージス武器システムやSSDSの様にサブシステムから情報を収集し統合して武器使用の意思決定を補助するといった能力を持ち合わせているのでしょう。防空・対潜・対艦・対地攻撃の管制やヘリコプター管制などが可能のようで、通信を通して他部隊と協調する能力も備わっているようです。サブセットとして「電子戦への耐性を高めたブロードバンド通信システムを備えており、現代的な機能は一通り兼ね備えているように思われます。また、特徴としては「Intel互換コンピュータ機器」(Pentium3を使用しているという話もあるけれど未確認)であるということなのでCOTS化が行われていることは間違いないでしょう。また一般的なLANでワークステーション同士が接続された「分散コンピューティングシステム」を採用しており、繰り返しになりますがこれもイージスシステム等西側の同等品が備える特徴です。
 この"SIGMA-E"、フランス製の"SENIT-9"と同等の能力を備えているかどうかは断言できませんが、カタログ的には第三世代SENITど同クラスの性能であると推定できるレベルになっていると思います。最悪の場合では"SIGMA-E"を1番艦”ウラジオストク”へ代替として投入することも出来たのかもしれませんが、安定性や信頼性ではシリーズとしての実績もミストラル級での動作実績もある"SENIT-9"をミストラル級で運用できるのはロシアにとって僥倖でしょう。運用の経験から新しい知見を得られるかもしれません。恐らく、大きな問題がなければ2番艦”セヴァストーポリ”では国防省の計画の通り"SIGMA-E"を導入するのではないでしょうか。

 ロシア国内で建造されている”セヴァストーポリ”艦尾部分は6月16日にフランスへ到着し結合される見通しのようです。海上試験を実施中の”ウラジオストク”で習熟訓練を行うため乗組員が6月1日にフランス入りするとのこと。一方でセルジューコフ前国防相の失脚により3番艦・4番艦の建造については見通しが不透明なままです。

ロシア軍は北極海に軍管区を設立する

 2014年12月までに北極海に北方艦隊を中核とした新しい軍管区を設立すると海軍中央ポータルflot.comが報じています。

 新設される軍管区の主要な任務は北極圏におけるロシア連邦の権益を保護することです。2014年12月までに北方艦隊は西部軍管区を離れ新軍管区の主力打撃部隊となります。
この件については、2013年12月にロシア国防相セルゲイ・ショイグが新軍管区設立の準備は軍事施設の建設においては既に開始されており、ノヴォシビルスク諸島とフランツ・ヨーゼフ諸島において工事が行われていると述べています。

 地球温暖化に伴い北極海航路北極海の資源開発が現実的なものとなりつつ有るのに対し、ロシアは北極海を新たな作戦地域として捉え、北極海に投入可能なハードウェアである装備の開発を表明していますが、ハードウェアを運用するソフトウエア側である軍管区を北極(海)に新設することでより効果的な運用体制を整えようとしているようです。新設される軍管区は現在西部軍管区に所属する北方艦隊が中核となり構成されますが、ノヴォシビルスク諸島も新軍管区の管轄下に置かれるのであれば北極圏一帯をカバーするかなり巨大な軍管区となりそうです。北方艦隊では装備の近代化が進められており、2020年までに6隻の多目的原子力潜水艦、2隻の大型揚陸艦、1隻の駆逐艦、それぞれ5隻のフリゲートと掃海艦と21隻の支援艦及び1隻の戦略原潜北方艦隊は受領するとされており、また北方艦隊司令官のウラジミール・コロリョフ海軍中将は「2016年には装備のうち50%が、2020年には85%が新型でなければならない」との見方を示しており装備更新の必要性を訴えています。こうした新装備の調達は現在の機材を更新するという意味合いはもちろんありますが、装備の入換を通じて北極圏での作戦能力を徐々に向上させていく狙いも有るでしょう。国家権益の保護という観点から考えれば、普段の巡回を行う警備艦艇はもちろん重要ですが、必要な際に部隊を投入し制圧を行う行動も求められるでしょう。軽装備であっても部隊をいち早く投入することと、北極圏の気候により航空機の飛行が困難な状況も想定されることを鑑みればロプーチャ級やイワン・グレン級程度の揚陸艦(あるいはより小さい)の増備は必要とされるのではないでしょうか。また、ロシアの構想する新型空母を中核とした機動部隊の護衛艦として考えられている「新型駆逐艦」と同一であるかどうかは定かで無いものの、北方海域向けに大洋ゾーン艦に匹敵する規模の原子力艦及び沿岸作戦向けの艦艇の整備も表明しています。

 北極圏に眠る資源については以前にも記したことがありますが、主要な資源はガスや石油であり、なかでもスカンジナビア半島近くのシュトックマンの海底ガス田は世界第八位の埋蔵量を誇るとされています。他にもペチョラ海・カラ海・バレンツ海にガス田や油田が確認されており、こういった資源の採掘を行うためにも国境警備態勢を整え安全をアピールして企業を誘致していく狙いがあると思われます。また、このシュトックマン海底ガス田は主要なカスタマーに欧州を見込んでいますが、ウクライナを迂回しロシアに天然ガス供給を依存しないために欧州が整備を進めているトルコ・バルカン半島を経由の”ナブッコ・パイプライン”への対抗策としても価格次第では機能するのではないでしょうか。

ロシアはジブチとベトナムとの間で入港手続き簡略化の合意を結ぶ

イタルタス通信によると、ロシア国防省ベトナムジブチの軍事当局とそれぞれの港におけるロシア海軍艦艇の入港手続き簡略化に合意することを計画しているとのこと。

「手続き簡略化の準備は高い水準で整っています。より正確に言えば、この合意は今年中に成立するでしょう。この合意は海洋でロシア海軍艦艇が作戦行動に従事した後にジブチカムラン湾の港に彼らが入港するのに好ましい状況をもたらします。」情報筋はこう述べました。インタビューアーは合意に調印して以降はジブチベトナムの港をロシア海軍艦艇が自由に行き交うことになるだろうと記していますが、一方それらの港湾においてでロシア海軍艦艇に対して行われるありとあらゆる支援についてロシアは代価を支払わなければならないだろうと述べています。「ありとあらゆるもの―艦艇が港に滞在する時間、補給する燃料、水・食料の供給、電力の供給、もし必要であれば乗員が艦を離れている間の艦艇の維持と修理作業―に対して代価を支払わなければならないでしょう。」彼は述べました。また付け加えて情報筋はロシアはジブチで空港のリースを受けることを意図していると述べています。「その飛行場は首都の近くにあり、近代化の可能性を帯びて数年間ロシアに貸し出されるでしょう。」「滑走路の長さはIL-76やIL-78の様な大型輸送機の運用が可能なほどではありません。したがって明らかにロシア側はジブチとの合意において自己負担での滑走路延長工事を行うことを盛り込むでしょう。」
 ロシア国防大臣のセルゲイ・ショイグは3月26日の軍事オブザーバーとの会議でロシアは全世界における自らの軍事プレゼンスを広めていくという発言をしました。特に、海外拠点となる軍事基地を増加させるのか否かという質問に対してショイグ国防相はそのような交渉がベトナムキューバに対して行われると回答しました。国防相は付け加えて「セーシェル共和国シンガポールアルジェリアキプロスベネズエラニカラグアとさらに数か国との間で活発な交渉を行っています。」と説明しました。ショイグ国防相によると、「ロシア海軍の艦艇が異なる地域、異なる領土に駐留する機会を確保することは手続き簡略化の可能性であり、必要なことである」ということです。また国防大臣は続けて「赤道一帯やその他の地域で航空機に長距離の飛行を行う航空機に給油を行う必要があります。あなた方も知っている通り、我々は活動的に飛行し、より活動的で有るために飛行します。我々には給油のための基地が必要なのです。」と語りロシアが利用できる飛行場を世界規模で整備することの意義を語りました。国防大臣の見通しによると、それらの航空基地はIL-78空中給油機を運用することになるだろうということでありIL-78は長距離を飛行する航空機に空中で燃料を提供できます。「我々にはそういった基地が必要です。我々はリストアップした国々と合意を確立するという結果に極めて近づいています。」国防大臣はそう結びました。しかし、彼はこういった協定をジブチと結ぶべく交渉下にあるかどうかは明らかにしませんでした。アフリカ東側に位置するジブチはアデン湾に隣接し、そのアデン湾ではロシア海軍が日常的に対海賊任務に就いています。

(↑タルトゥースに停泊するロプーチャ級大型揚陸艦

 ロシアがベトナムジブチの港を自国艦艇の補給や休息に利用できるよう協定を結ぶことを意図しているというのが本旨の記事でしたが、その背景にはロシアの軍事プレゼンスを全世界規模的に高めるという目的が存在することが語られています。ロシア軍の海外拠点として有名であるのはシリアのタルトゥースでしょう。シリア海軍の拠点でも有る同地には3つの倉庫と1つの管理所を擁するタルトゥース海軍補給物資供給所があり、また黒海艦隊から工作船の派遣も行われているため燃料や物資の補給及び簡易な修理を行うことが出来ます。北方艦隊の艦艇が遠征する際に立ち寄るなどロシア海軍の遠征を支える存在ですが扱いとしては”海軍補給物資供給所”であり”基地”よりも格下の区分に分類されています。こうした補給地を増やすことで遠征の際により柔軟なプランをつくり上げることが可能になる他、遠方に補給地を設定できれば世界規模で部隊展開する場合に役立ちます。特に現在のロシア海軍は空母アドミラル・クズネツォフやソブレメンヌイ級駆逐艦の様な蒸気タービンを採用し重油を使用する艦艇とウダロイ級やより新しい艦の様にガスタービンを採用し軽油を使用する艦が入り混じっているでの(普段の運用はもちろんのこと)遠征時の燃料補給はそれなりに頭の痛い問題でしょう。需要の高い任務の性質もありソブレメンヌイ級は遠征においての稼働率を落としていますがアドミラル・クズネツォフはそれなりの頻度で遠征を行っているためタルトゥース以外のこうした補給地の存在は多少なりとも遠征部隊編成の負担を減らすことになるのでは無いでしょうか。ソブレメンヌイ級はいずれアドミラル・ゴルシコフ級フリゲート(プロジェクト22350)で置き換えられるでしょうから空母随伴部隊から蒸気タービン艦が消滅する日がそれなりに近い将来やってくるのは間違いありませんがアドミラル・クズネツォフ自体は現在ロシア海軍が検討している次世代空母が具現化するか寿命を迎えるまで存在し続けるでしょう。
  記事ではセーシェル共和国シンガポールアルジェリアキプロスベネズエラニカラグアといった国々が合意を結ぶ相手国としてショイグ国防相の口から語られていますが、セーシェル共和国アラビア海(インド洋)、アルジェリアは地中海沿岸のアフリカ、キプロスは地中海と地中海・アフリカ近辺に非常に軸足を置いた選択となっています。記事の最後にも述べられているとおり、ロシア海軍は現在恒常的にアデン湾に海賊対処部隊を派遣しており、その際にタルトゥースの海軍補給物資供給所は中継拠点として利用されています。以前、チルコフ中将はタルトゥースの拠点について「特にアデン湾での海賊対策に関する任務を遂行する場合などにおいて、ロシア艦隊にとって不可欠」と述べておりパナマ運河経由でアデン湾へ向かう場合の地中海の補給所の重要さを垣間見ることが出来ます。そういった重要拠点について予備を用意することは自然なことでしょう。また、ジブチを含めてアデン湾近くにも拠点を確保しておくことも理解できる行動です。また、太平洋方面にベトナムシンガポールを、そして中南米ベネズエラニカラグアを拠点として利用したい意向からは海賊対処とは別に広範囲に部隊を展開させる意図を感じ取ることが出来ます。余談ですが、ショイグ国防相の挙げた国々はロシア海軍が訪問した経歴の有る国ばかりです。友好的な関係にある国々でしょうから当たり前といえばそうでしょうが。ベトナムに関しては以前から基地使用を目論んでいました
 一つのトピックとなっているのがジブチの飛行場のリースを受けるという事です。海上自衛隊も初の海外拠点としてジブチ国際空港の一角を借りてP-3C哨戒機による海賊対処を行っていますが、ロシアの思惑は空中給油機による航空機への燃料提供にあるようです。もちろん、以前フランスに配備を依頼したように固定翼哨戒機や偵察機を持ち込んで海賊対処を行うかも知れませんが。緊急を要しない場合であれば航空機を飛行場に着陸させることで燃料の補給が可能ですが、当然時間が余計にかかります。一方で空中給油であればパイロットの体力の続く限りそのまま飛行を継続できるので部隊の急速展開が求められる場合では空中給油機が必要となるでしょう。実地戦略演習ヴォストーク2010では欧州から極東までSu-24とSu-34が空中給油のみ(着陸なし)で展開しています。そういった作戦行動を必要なときに取れるようにしておくための布石ではないでしょうか。また、IL-78が運用できるサイズに拡張するのであれば中・大型輸送機の運用も可能になるでしょうから、リースを受けた後は積極的な運用がなされることでしょう。

ロシア海軍はロプーチャ級大型揚陸艦を維持する

 RIAノーボスチによると、ショイグ国防相は老朽化するロプーチャ級揚陸艦を維持していく方針を明かしました。
ショイグ国防相は、現在19隻の大型揚陸艦ロシア海軍で処分されようとしていると前置きした上で
「この種の艦船の平均的な寿命は25年以上です。現在、国防省は上陸作戦部隊の機材を更新しており、2015年には大型揚陸艦イワン・グレンと2隻のドック型揚陸艦ウラジオストクとセヴァストーポリ―が完成します。しかし、これらのみでは上陸手段としては不十分でありロプーチャ級のレストアを準備しておくことに注意を払うことが重要です。」と語りました。彼は「少なくとも2隻のロプーチャ級をレストアする予定です。しかし、揚陸艦艇が戦闘において望ましい水準を維持するには船体強化の追加処置が必要となります。」と付け加えました。

(↑ロプーチャ級原型のBDK-14 ”ムフタル・アヴェゾフ”)
 現在のロシア海軍の揚陸戦力の中核をなすのが775型ロプーチャ級大型揚陸艦で、28隻全艦がポーランドで1975〜1991年にかけて建造されました。現在は19隻が就役しており、これら全てが「処分されようとしている」というのは大げさな表現ですがこれから新たな両用戦装備が整えられていけば退役していくこととなるのは間違いありません。しかし、ノーボスチの記事でも取り上げられている新型のイワン・グレン級大型揚陸艦は予定では計5隻が建造されることになっていますが、建造しているヤンタリ造船所のドックの空き具合などから今後の建造の見通しが不透明であり直ちにロプーチャ級の代替となることは出来ません。またミストラル級(ウラジオストク・セヴァストーポリ)は形態としては戦車揚陸艦に近いロプーチャ級の任務をこなす目的の艦船では無い上に排水量や装備からしても求められる任務が異なるの明らかであるためこれをロプーチャ級の代替とすることはやはり不可能です。ミストラル級に関しては導入を推進した前国防相セルジューコフの失脚もありますから、それが今後何かしらの影響をおよぼすことも有るかもしれません。そのため現在の揚陸戦力の維持には既存のロプーチャ級を近代化する必要があると判断したのでしょう。現役最古のロプーチャ級は1976年就役のBDK-182”コンドポガ”で、ショイグ国防相の「平均寿命25年」と照らしあわして考えると既に耐用年数をオーバーしていると言えるでしょう。この25年という平均寿命に達していない艦は少なく、あくまでも”平均”なのである程度幅を取って年数27年以下(1987年以降に建造)艦をピックアップすると9隻と全体の半分程度です。残りの艦は概ね寿命に到達していると考えられるので、今後も使用し続けるのであれば西側でいうところのFRAMのような艦齢の延長を含めた全体的な装備の近代化が必要となるでしょう。あまりに古い艦はそのまま寿命が来るまで使用するにしても、原型の775型である程度の艦齢に達している艦から近代化を実施していくのではないでしょうか。